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内部通報体制の整備が義務に 22年6月施行の改正公益通報者保護法で、何が変わる?求められる対応は(2/3 ページ)

» 2022年04月19日 07時00分 公開
[企業実務]

法改正のポイント

 前述した通り、公益通報者保護法は保護対象となる通報行為を相当程度限定することで正当な通報行為と濫用(らんよう)的な通報行為のバランスを取ろうとしています。

 しかし、近年、同法の保護要件が限定的過ぎて使い勝手が悪い、事業主側にペナルティーがないので実効性に欠けるなどといった批判がされるようになりました。

 このような批判を踏まえ、公益通報者保護法は2020年6月に一部改正され、改正法がことし6月1日から施行されることになっています。

 ここからは、当該改正のポイントを解説していきます。

【1】保護対象者の拡大

 現行の公益通報者保護法(以下「現行法」といいます)は保護対象となる範囲を、現在就労中の労働者と派遣労働者に限定していました。

 しかし、改正法では、現在就労中の労働者などに加え、退職した労働者・派遣労働者、契約中・契約終了後の業務委託先(業務委託先の労働者などを含む)および役員が保護対象者に追加されました(改正法2条1項各号)。

 また、保護対象者に役員を追加したことを踏まえ、役員が一定の条件を満たす公益通報行為を行った場合、これを理由に解任された場合には当該解任で生じた損害の賠償を求めることができることが明記されました(改正法6条)

【2】行政機関・第三者に対する通報にかかる規制緩和

 現行法が保護される行政機関や外部者への通報行為をある程度限定していることは前述しましたが、改正法はこの限定を若干緩和し、以下のような場合も保護対象に追加しています。

(1)行政機関に対する通報行為

 行政機関に対しては、以下に挙げる所定の事項を書面などに明記して通報を行う場合、通報対象事実の発生などを信じるに足りる相当な理由までは要求しないこととされました(改正法3条2号)。

  • A:公益通報者の氏名・住所
  • B:通報対象事実の内容
  • C:通報対象事実が発生しているまたは現に発生しようとしていると考える理由
  • D:通報対象事実について法律上の措置が取られるべきと考える理由

(2)第三者に対する通報行為

 第三者に対する通報行為について通報対象事実の発生などを信じるに足りる相当な理由まで要求されることは現行法と同じです。

 もっとも、改正法は当該要件に追加される条件に図表2の事項を新規で加えることで、保護の限定範囲を拡張しました。

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【3】事業者側の損害賠償請求権の制限

 改正法は、公益通報の名宛人となった事業者が、正当な公益通報を行った通報者に対して、通報行為により生じた損害の賠償を求めることを禁止しました(改正法7条)。

 このような損害賠償請求は現行法でも難しいと考えられますが、同法はこの点をあえて注意的に定めたものと考えられます。

【4】事業者の体制整備の義務

 改正法では、役員・従業員による公益通報(以下「内部通報」といいます)について事業者側に一定の体制を整備するべき義務を新たに設定しています(改正法11条および12条)。

 これは現行法では義務付けがされていなかったものを、ことさら義務付けたものであり、詳細は後述します。

【5】行政機関の是正指導権限の拡張

 改正法は、行政当局が、事業者に対し、公益通報者保護法の定める体制整備について一定の報告を求めたり、是正のための助言・指導・勧告を行うことができること、是正勧告に従わない事業者を公表できることを明記しました。(改正法15条・16条)

 現行法では、行政当局は通報先となる場合に限り調査権限などが認められていましたが、改正法は行政当局により一般的な権限を認めて、行政側が公益的見地からより広く対応できるよう整備がされました。

【6】刑事罰の新設

 改正法は、事業者から公益通報対応業務の担当者に任ぜられた者が、正当な理由なく通報者を特定できる情報を漏えいする行為に30万円以下の罰金刑を定め、また、行政当局による事業者の体制整備にかかる報告要求について、報告をしなかったり虚偽報告をする行為に20万円以下の罰金刑を定めました。(改正法21条・22条)

 現行法では公益通報者保護法違反について刑事罰は定められていませんでしたので、改正法は一定の違反についてより厳しい態度で臨むことを明確に打ち出したものといえそうです。

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