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内部通報体制の整備が義務に 22年6月施行の改正公益通報者保護法で、何が変わる?求められる対応は(3/3 ページ)

» 2022年04月19日 07時00分 公開
[企業実務]
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実務上の留意点

 改正法では通報者の保護をより手厚くするための改正がもろもろ行われましたが、事業者側で実際に具体的対応を要するのは前記【4】で述べた体制整備の義務です。

 これは改正法で新設された義務であり、同義務違反は行政当局から処分される可能性もあります(前記【5】)。

 ここでは、事業者側においてどのような体制を整備する必要があるかを公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号。以下「指針」といいます)を踏まえて解説します。

 なお、この体制整備の義務は常時300人超の事業者について求められるものであり、これ以外の事業者については努力義務とされていることは留意しましょう。

【1】公益通報対応業務従事者の選定

 事業者は、内部者からの公益通報について対応する者(公益通報対応業務従事者)を、書面などの明確な方法によって指定する必要があります。

 この指定は、全ての内部通報業務に対する包括的指定でも、個々の内部通報業務に対する個別的指定でもよいようです。

 いずれの場合も、指定された者は公益通報対応業務(通報の受け付け、調査、是正などの業務)を主たる職務とする部門に所属する必要があり、形式的・名目的な指定は許されません。

【2】内部公益通報窓口の設置

 事業主は内部者からの公益通報を受け付ける窓口を設置する必要があります。

 この窓口は、企業内部・外部のいずれかに設置してもよいですし、両方に設置してもよいとされています。

 具体的には内部通報先の連絡先や連絡方法を明確に設定し、企業内で周知することで設置の義務を果たすことになりそうです。

 なお、内部通報対応業務は組織の長・幹部から独立して処理される必要がありますので、受け付け窓口も長・幹部から独立した部門や外部に設置される必要があることに留意しましょう。

【3】内部公益通報への適切な対応

 事業主は、通報への対応として、必要な調査を実施すること、調査で認定された法令違反を是正する措置を講じること、当該是正措置の効果を事後的に検証することが求められます。

 そして、これら対応業務について特に留意するべきと思われる事項を簡単に挙げておきます。

 まず、対応を行うに当たっては、事案に利害関係のある者を担当から除外する必要があります。

 また、これらの対応は正当な理由があれば免除されますが、通報が匿名であるという理由では免除には至らず、通報者と連絡が取れず事実確認すら困難という場合に至って免除となると考えるべきです。このほか解決済みの事案について通報が繰り返された場合も対応が免除される可能性がありますが、解決済みか否かは客観的に評価される必要があることに留意しましょう。

 なお、通報が窓口以外にされた場合は、直ちに対応しなくてよいというものではなく、通報窓口を別途案内したり、適宜、情報を窓口に共有して処理するなど柔軟な対応が推奨されていることにも留意しましょう。

【4】公益通報者に対する保護措置

 事業者は、通報者を保護するために、図表3の措置を講ずることが求められます。

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【5】企業内での教育・周知

 事業主は、公益通報制度の実効性を担保するという観点から、公益通報制度の意味・重要性、公益通報への体制整備の仕組み・状況、公益通報への対応にかかるルールなどを企業内で教育し、周知することが求められます。

【6】内部通報記録の保管・見直し・開示

 事業主は、通報への対応を記録化して適切な期間保管すること、対応体制を定期的に評価・点検して必要に応じ改善すること、対応業務の実績を必要な範囲で役職員に共有することが求められます。

 この保管期間や評価・点検の方法や実績共有の方法は、各企業の判断に委ねられていますので、企業において内部通報制度の実効性向上に資すると考える合理的方法で実施すればよいでしょう。

 昨今のインターネット社会では企業の不正・不祥事が容易に外部に発信される危険性があります。適格な内部通報体制を整備することは、不用意な情報漏えいを抑止することにもつながります。積極的に実施していきましょう。

著者紹介:梅澤 康二(うめざわ・こうじ)

プラム綜合法律事務所/弁護士

弁護士法人プラム綜合法律事務所代表。2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年プラム綜合法律事務所設立。迅速な対応と高品質なリーガルサービスに定評がある。

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