北海道大樹町に本社を置く宇宙開発ベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」(IST)。ホリエモンこと堀江貴文氏が取締役ファウンダーを務めていることでも知られる。
2月に始まったウクライナ戦争の影響で、国内の民間宇宙開発の必要性はかつてないほど高まってきている。これまで国際的な宇宙開発の中心を担っていたロシアが、戦争と経済制裁により開発の続行が困難とみられているためだ。
「オールドスペース」と呼ばれている国主導での宇宙開発では、米国でさえもロシア抜きではロケットが飛ばせないほどの依存体質を築いてきた。その一方で、イーロン・マスク氏が率いる「スペースX」をはじめとするニュースペース、特に米国の民間宇宙企業では、単独のロケット打ち上げが可能だ。今や米国では、民間企業しかロケットを打ち上げられない可能性もある。
その点、日本では比較的、国内でのサプライチェーンの機能が保たれていて、ISTでも他国の部品に依存しない形で、ロケットの打ち上げに何度も成功している。
堀江氏は、4月に新たにISTに出資したKADOKAWAの夏野剛社長とIST東京支社で対談。ウクライナ戦争が現在の民間宇宙開発に及ぼしている影響や、今後について語った。
夏野: 今まで宇宙開発においては、ロシアも米国もみんな一体になっていて、これに中国が独自に対抗して打ち上げるという構図になっていました。このまま収束するかと思われたのですが、これでもうロシアは、単独では宇宙開発で最先端を走ることはできなくなりましたね。
堀江: できないですね。ロシアのサプライチェーンは、実はクリミア侵攻の時にかなり経済制裁を受けていて崩壊しているんですよね。ロケットの部品で一番重要な部品は「ターボポンプ」なんです。その燃料と酸化剤、推進剤を燃焼室に高圧で送り出す仕組みがあるんですけど、これに使われている部品が、もうロシア国内で製造できないかもしれないといわれています。
特に、シールという部品とベアリングが重要で、例えば国内で宇宙品質のシールを作れるメーカーは日本に一社しかないんです。もしかしたらロシアには、ないかもしれない。シールってすごい技術ですよ。
夏野: ベアリングは日本が一番強いところですね。
堀江: はい。結局ロシアの民生用の部品とか、鉄道とかに使われているベアリングは恐らくドイツ製なんですよね。ロシアでは、高性能な部品を作る工作機械も作れなくなりつつあります。
日本で生産されているシールやベアリングは、それまでオールドスペースの人たちがその技術を維持するために、ずっと発注し続けていました。もちろん高度な部品なのですが、ロケット以外では使われないので、年間に何十個とかいう単位でしか作っていなかったんですね。
でも、これから民間のロケット開発が進むことによって量産化が進めばコストは間違いなく安くなります。ロケットがLinuxのサーバのようにたくさん飛ばせるようになると、確実にフェーズが変わります。そしてこの軍事の話を考えて思うのは、こうしたサプライチェーンを国内で完結できていることは、実はすごいことなんです。
夏野: みんな原材料の話をするけど、実は大切なのは加工技術なんですよね。
堀江: でも、日本は少なくともちゃんとやってきたんだなっていうのは、すごくよく分かりました。
夏野: それが戦略的かどうかは別にしてね。
堀江: そうです、そうです(笑)。現場のこだわりみたいな構造になっているかもしれないですけど。
夏野: でもね、これを維持するためにはやっぱり戦略が必要なんです。ここからは戦略が必要。あとね、やっぱり今回すごかったのはスペースXが開発を進めている「スターリンク」っていう衛星通信システムですよね。あれはもうビジョンでしか作り得なかったものだと思うんですよ。
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