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タブー視されがちな「解雇無効時の金銭解決ルール」 働き手にとってもメリットがありそうなワケ厚労省でも検討開始(1/4 ページ)

» 2022年04月27日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 4月11日、NHKは「“無効解雇の金銭解決制度” 厚労省 検討会が報告書まとめる」 と報じました。解雇が無効だと判断された場合に金銭で解決するルールは、これまでにも有識者の検討会で何度も議論が重ねられてきています。

 解雇を不服として裁判などで争い、無効と判断されると職場に復帰することになりますが、それが現実的に難しい場合は解決金が支払われることがあります。ただ、その金額にはかなりバラつきがあります。金銭解決ルールを整備しておくことは、解雇が無効と判断された際の相場感が把握できることから一定の合理性があるように考えられるでしょう。

 しかしながら、立場の弱い働き手側としては慎重にならざるを得ません。金銭解決ルールを定めることによる不利益が想定されるからです。

 まず、解雇無効時に限った補償金であったとしても、ルールが整備されることで、「お金を払えば解雇できるシステム」が実質的に誕生することになります。ニュースの中で「申し立てをできるのは労働者に限定する」と報告書の内容に言及しているのは、会社からの申し立ても認めてしまうと、会社側の一方的な意思で解雇しやすくなってしまうからです。

 また、ある程度会社にとって厳しい条件のルールを設定したとしても、一度金銭解決ルールを認めてしまえば、その後ズルズルと条件が緩和されていく懸念もあります。

 このように、会社と比較して弱いとされる働き手側の立場がさらに弱まってしまう状態を避けるために、議論が重ねられても金銭解決ルールの整備はなかなか前に進みませんでした。ともすると、深く踏み込んではならないタブーのように扱われている感さえあります。

タブー視されてきた感もある「解雇の金銭解決」(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

 一方で、会社側からすると、できる限り解雇権を自由に行使したい思惑があります。社員を採用したとしても、その社員が期待通りの成果を出してくれるとは限りません。また、最初のうちは働きと賃金が見合っていたとしても、年功賃金で在籍年数とともに賃金が上がっていくと、いずれ働きに見合わない高給取りになることがあります。世にいう“働かないおじさん”問題です。会社としては、費用対効果が合わない社員を解雇して、採算が取れる社員と入れ替えられれば好都合です。

 会社は目まぐるしい経済環境の変化の中で、難しい舵とりをしています。今必要な人材が数年の間に不要となり、他の人材が必要になるということは頻繁に起こり得ます。不要になった人材が能力を発揮できるポジションが見当たらない場合、“お荷物”を抱えた状態で経営しなくてはなりません。それは会社の競争力を低下させる要因になり得ます。

 欧州では、解雇権が乱用されることを防ぐため、解雇する際の正当な理由に該当する要件が定められている一方で、不当解雇と判断された場合には金銭で補償する制度が設けられています。会社としては金銭的痛みを伴いますが、補償金の相場が把握できれば解雇を経営計画に組み込むことができます。

 以上をあらためて整理すると、解雇無効時の金銭解決ルールを望んでいるのは、基本的に会社側だという図式が見えてきます。金銭解決ルールが、一方的に会社側だけが必要としている制度であれば、検討することがタブー視されても仕方ないように思います。

 では、本当に金銭解決ルールは会社側にだけ必要な制度なのでしょうか。会社と社員の関係性を軸に分類して、検証してみたいと思います。

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