クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

マツダの世界戦略車 CX-60全方位分析(3)池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2022年04月27日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

ダイアゴナルロール主導のハンドリングの否定

 さて、理念と目標は分かったこととして、それを具体的にどういう技術によって成し遂げようとしているのか?

 第一にエネルギーコントロールボディである。ボディの部位による役割分担を明確化したものだ。4つのタイヤを結ぶ部分、つまりホイールベースとトレッドで定義される矩形(くけい)の構造体は、路面からの入力と路面への出力を司る「エネルギー伝達」の機能を担う。そのためにこの部分は剛性を高めて捻れや曲げへの耐性を高める。

 次に4つのサスペンションの入力点、つまりサスペンションの取り付け部だ。ことに突き上げ入力の入力点となる部分には「エネルギー反射」の機能を持たせる。要するにNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス:音・振動・突き上げ)を反射させて、ボディに伝えない機能である。

 そして最初に定義した矩形の外側、つまりボディ前後のオーバーハングでは安全性を担保するための「エネルギー変換・吸収」を担う。いうまでもなく衝突時の衝撃を吸収し、キャビンを守る緩衝体構造を取るという意味だ。

 それだけかというと、それだけではない。今挙げた話はスタティックな領域の話であり、ダイナミックな領域ではまた機能が違う。今度はコーナリング時の時系列での着力を連続的になだらかにしようというエンジニアリングだ。

 ターンインでハンドルを切って舵角を入れる。細かくいえばまずクルマは直進したまま、前輪に横滑り角が付き、それによって横力が発生する。工学的には因果関係は「横滑り角が発生したから横力が発生する」のであって、舵角が直接横力を発生させるのではない。これはいわゆるインプレッション用語でいうところの「ヨーの立ち上がり」である。これまでマツダが重視してきたダイアゴナルロールはこのターンインの鋭敏さを求めるセッティングであった。

 次に前輪の横力によって、クルマ全体に横滑り角が発生して、後輪に横力が立ち上がる。後輪に横力が発生して以降は、それ以上に前輪を切り増して、スリップ角を増やして横力を増加させない限り、前後のタイヤは揃って横力を発生させ、平行にロールしながら定常的旋回姿勢に入る。インプレッション用語で言う「旋回」である。ここでアクセルを緩めたり、ブレーキを軽く掛けたりすると平行ロールからダイアゴナルロールへ移行して、フロントを巻き込む。これも従来マツダが重視してきたダイアゴナルロール主導のハンドリングであった。

 旋回姿勢時にはロールが発生するので、ばね上は外に向かって倒れこもうとする。この倒れ込み速度が変化すると人は不安になるので、ロール速度を一定に保とうとした。

 さて、ややこしくて申し訳ないが、今回のシャシーは、過去のダイアゴナルロール主導のハンドリングの否定からスタートしている。だから、まず、最初の段階でのヨーの立ち上がりの鋭さを抑えて線形にした。過敏な反応を抑えるセッティングである。

 次に旋回に入ってから前後の荷重移動によってダイアゴナルロール主導によるフロントの巻き込み姿勢を抑えた。ヨー一定の旋回から、ヨー過剰なターンイン姿勢への往き来を起こりにくくした。

 そういうヨーの増減が起こりにくければ、ロールの増減も起きにくくなるので車両姿勢が安定し、ロール速度変化による不安感が減る。

 全体に何をやったかといえば、急変する状況を丁寧に取り除き、全体のつながりを一定にするように全てを躾(しつ)け直した。「力の伝達を順番に途切れなく滑らかに」という表で書かれているのがこれである。

 だいぶ話が難しかったかもしれない。申し訳ないがこれでも一生懸命かみ砕いたので、これで分からないとちょっと筆者にはやりようがない。というかマツダには「こんな領域で説明しなきゃならないクルマを作りやがったな」と恨み節のひとつも言いたい。

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