【対談】バーティカルSaaSトップランナーに共通する成長戦略とは(2/4 ページ)

» 2022年04月27日 07時00分 公開
[早船明夫ITmedia]

トップSaaS2社はいかに業界シェアを獲得したか

 各領域でサービスを定着させてきた両社だが、そこに至るまでの戦略は業界によって大きく異なっている。

 まずはMCデータプラス。建設業界は、元請会社と工事を請け負う協力会社が複層的に重なり合う、多重下請け構造になっている。ゼネコンなどの元請会社がプロジェクトの管理を担い、各専門工事を協力会社などが一次請け、二次請けとして現場作業を行う。

 このような業界の性質上、「大手ゼネコンへの導入を進めることでその協力会社でも利用が広まるというトップダウン型のアプローチが有効であった」(飯田氏)という。

 建設現場では出入りする複数の業者に対し、元請が利用するツールはトップダウンで導入を狙いやすい。特に「グリーンサイト」は、労務安全書類を作成する協力会社にとっても作成・提出コストが削減されるというメリットが大きいため、効率的にユーザーを獲得することができた。

 「親会社である三菱商事はもともと都市開発を行ってきた経緯もあったため、大手ゼネコンとも関係が強い。MCデータプラスがまだあまり知られていない当初から、信用力をもって営業を行うことができた」(飯田氏)と、トップダウン型アプローチの背景を語っている。

 他方、カケハシ。調剤薬局業界では、全国約6万店の薬局が存在している。最大手のアインホールディングスであっても店舗数は1100店舗に留まり、中堅・中小規模の企業がひしめく市場環境だ。

 「大手だけでなく、中堅・中小規模の薬局が多いため、それぞれの店舗運営に独立色がある。業界横並びで同じシステムを導入するということにはならないため、最初から大手を攻略するのではなく、価値訴求がしやすい中堅・中小規模の店舗から導入が進んでいった」(中川氏)

 また、建設業と異なり、業界内に影響を及ぼす「ゼネコン」的なプレイヤーはいないため、薬局・薬剤師などに関する学会・業界団体などで法律やDX化について発信する機会を積極的に設け「業界にポジティブな変化をもたらす企業、という期待をもってもらえるよう発信を行ってきた」(中川氏)という。

「資本の力」をフックにリアルビジネスへと展開を広げる

 近年、バーティカルSaaS企業が「リアル」領域へと展開を広げる動きが目立っている。

 ホリゾンタルSaaSではオフィスワーカー向けのシステムが大多数を占め、デジタル領域で大幅な効率化を図れることに対し、バーティカルSaaSは「現場」や「消費者」との関わりが大きく、モノやヒトを介さなければバリューチェーン全体をカバーするような価値提供を行うことができない。

 これまでは、人件費や広告宣伝費が先行投資の主体であったSaaSビジネスに対し、モノや物流なども絡むリアルビジネスは、これまでとは異なった投資が必要となる。

 このような取り組みについても、両社は異なる資本の特性を生かしスピーディーな展開を図っている。

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