【対談】バーティカルSaaSトップランナーに共通する成長戦略とは(1/4 ページ)

» 2022年04月27日 07時00分 公開
[早船明夫ITmedia]

 日本国内でもバーティカルSaaS盛り上がりの機運が本格化しつつある。

 2022年に入り、新興市場への向かい風が吹く中でも、ウェルネス産業向けSaaSを提供するhacomonoは20億円の資金調達を完了するなど、好調なニュースも見られる。

 SaaS企業の分析に特化したデータ・コンテンツを提供する「企業データが使えるノート」ではITmedianoteなどにおいて多くのバーティカルSaaS起業家にインタビューを行い、ビジネスの展望を聞いた。

 ホリゾンタルSaaSと比較して、対象顧客が限られる業界特化型のSaaSにおいては「業界シェアを獲得した後」の拡大戦略が重要となる。

 調剤薬局向けに電子薬歴システムを提供するカケハシ、建設業界で労務安全書類作成・管理クラウドサービスを展開するMCデータプラス。国内でも屈指のユーザー規模を持つSaaS企業は今後の成長をどのように描いていくのか。

 それぞれの領域で大きな存在感を示す2社の代表対談を企画し、バーティカルSaaS拡大に向けた戦略の要点を聞いた。

(左)MCデータプラスの飯田正生社長、(右)カケハシの中川貴史CEO

カケハシ、MCデータプラスとは

 カケハシがサービスを提供する調剤薬局業界では、患者への調剤や服薬指導の内容を薬剤師が「薬歴」として記録している。従来の紙ベースの薬歴業務から電子薬歴システムへの移行が進んできたものの、長年オンプレミス型製品が一般的だった。

 そこに参入したのが、同社のクラウド薬歴システム「Musubi」である。現在は周辺プロダクトを拡充し、薬歴入力や服薬指導といった薬剤師の現場業務から、薬の在庫管理や経営管理といった薬局運営全体をカバーするプロダクトへと移行しつつある。市場(薬剤師)認知率は8割を超え、クラウド型の電子薬歴システムとしてシェアを拡大している(カケハシの記事参照)。

 一方、“商社発”の異色の出自で建設業界と向き合うのが、MCデータプラス(三菱商事100%子会社)だ。

 同社は、建設現場の安全管理のための労務安全書類(通称グリーンファイル)の作成・管理・提出をクラウド化する「グリーンサイト」で、業界において圧倒的なシェアを獲得している。22年1月末時点では65万社、169万人が登録し、国内の建設業界で過半数の建設作業者が利用する業界標準ともいえるサービスだ(MCデータプラスの記事参照)。

 両社は全く異なる業界にサービスを展開しているが、そのユーザー基盤を活用し、単一プロダクトに留まらず、矢継ぎ早に新たな価値提供を試みている。ここからは具体的な戦略や意思決定の背景を聞いていく。

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