【対談】バーティカルSaaSトップランナーに共通する成長戦略とは(3/4 ページ)

» 2022年04月27日 07時00分 公開
[早船明夫ITmedia]

カケハシ - 未上場市場での資金調達を活用し積極的なM&Aを展開

 21年3月、カケハシはセプテーニ・ホールディングスと株式譲渡契約を結び、医薬品の二次流通サービスを提供するPharmarket社の完全子会社化を行った。これまではIT領域で完結していた同社のサービス領域に対し、M&Aを通じて「リアル」ビジネスに手を掛けた形だ。

 M&A費用はそれまでにカケハシが行ってきた総額55億円の資金調達が原資となっている。

 SaaSスタートアップが投資家から資金調達を行うにあたっては、自社発の事業やプロダクトに投資を行うことが一般的であり、未上場フェーズからM&Aに取り組むことは稀だ。「Musubi」による電子薬歴システムの提供だけに留まらず、早期から複合的な価値提供のための仕込みを行うことが同社の狙いだ。

 「単に目の前の課題を解決するようなプロダクトに留まらず、高齢化や医療費の高騰などの国レベルの課題に向き合うことがカケハシのビジョンです。そのため、自社発のサービスだけにこだわらず、必要な手段で事業拡大を試みています」(中川氏)とスタートアップの機動的な資金調達を生かし、矢継ぎ早に領域を拡大している。

商社資本を活用し独自性を強めるMCデータプラス

 一方でMCデータプラス社長の飯田氏は「現場のニーズに合わせて事業領域の拡大可能性を探っていく」と、ボトムアップ型での新規事業を模索する。同社の強みは、現場で発掘したニーズに合わせて柔軟に対応できるアセットを備えている点にある。

 「建設サイト・シリーズ」を通じて蓄積した、65万社、169万人の企業・ユーザーデータは、事業拡大の基盤だ。さらに親会社である三菱商事は、さまざまな業界に対してバリューチェーンをカバーしており、特にモノを届ける上では強力な後押しとなる。

 MCデータプラスはこれらのネットワークを生かし、ハイブランドの建設現場向け作業靴を提供するアシックスジャパンと提携。サービス登録者向けに作業靴のサブスクリプションサービスを提供開始するなど、商社資本を生かした「リアル×デジタル」の取り組みを開始している。

 全く異なる業界であっても、SaaSプロダクトを起点としたリアルビジネスへの展開を行っている点で共通の戦略が見受けられる。これらの取り組みは今後、建設や調剤薬局業界外でのバーティカル領域でも事例が増えていくものと考えられる。

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