なぜ吉野家は「炎上3連チャン」をやらかしたのか わずか1カ月半の間にスピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2022年05月10日 09時52分 公開
[窪田順生ITmedia]

仕事が「雑」

 今から10年ほど前、ある大企業のお客様相談室長が、自社のキャンペーンに文句をつけた顧客に対して、今回の吉野家のお客様相談室長とまったく同じような対応をしていたのを見たことがある。

 室長は、文句を言ってくる顧客に対して、必要最低限のコミュニケーションしかしなかった。電話での会話やメールのやりとりを長くすると、最近は勝手に録音され、ネットやSNSでさらされる危険性もあるので、とにかく短いやり取りを続ける。もし相手が納得しないようなら、訴訟をする準備があることをちらつかせて、足元を見られないようにすることが大切だ、と筆者に教えてくれた。ちなみに、これはある有名企業のお客様相談室長が講師を務める勉強会で、教えてもらった「効率的にクレーマーをさばくテクニック」だと胸を張っていた。

 このようなやり方を否定するつもりはない。筆者もすさまじいモンスタークレーマーの対応を手伝ったことがあるので、足元を見られないように強気の姿勢を見せ続けるという戦い方があるのは痛感している。日々、膨大な数の問い合わせやクレームが寄せられる中で、1人の対応に何日も取られるのは、あまりにも効率が悪いというのも理解できる。

 しかし、今回の吉野家のケースからも分かるように、「効率的な対応」というのは「雑な対応」に取られてしまう場合もあるのだ。みなさんもコールセンターに電話をして、マニュアルを棒読みしたような事務的な対応をされたらカチンとくるだろう。人と人とのコミュニケーションというのは「ムダ」も大事なのだ。

 それは、吉野家の採用担当者の炎上を見ても明らかだ。マスコミの報道によれば、もともと吉野家は外国籍の可能性がある学生に対して「個別」に連絡をして、ビザの関係で内定が取り消しになる恐れがある旨を伝えて、説明会の参加をお断りするという対応をしていた。しかし、どういうワケか今回は対象の学生に対して「一括でお断りメール」を送っている。つまり、「ムダ」を省いて効率的な対応をしたことが、トラブルの原因なのだ。

2022年2月期の決算説明会資料より

 また、「生娘をシャブ漬け戦略」と失言した常務取締役も見ようによっては、仕事が「雑」だったので炎上したと言えなくもない。本来、吉野家の中では、クッキング&コンフォートという新業態の店舗を増やすことで、若い女性客も増やしていくというマーケティング戦略も進めていたのだから、それを丁寧に説明をするだけで、いい講演になったのである。しかし、てっとり早く、しかも参加者にウケも欲しかった。なので、おじさんたちが居酒屋で酔っ払ってするような、配慮のかけらもない「雑な表現」をしてしまったのである。

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