「労働基準監督署が来ることになったので、協力をお願いできますか?」
管理職として転職した会社で、総務人事の担当者から印鑑を持ってきてほしいと呼び出され持参したところ、そう切り出されました。
どのような協力かを尋ねると、勤怠管理簿に印鑑を押してほしいとのこと。そこで差し出されたのは、管理下の部署に所属する社員たちの名前が書かれた勤怠管理簿でした。しかし中身を確認すると、ほとんど定時上がりの数字が記載されています。一目見て「改ざんだ」と理解しました。
管理下の社員の中には残業が多くなっている人もいましたが、労基署に問題視されるほどではなく、けげんに思って意図を確認しても「それは……」と口を濁すだけ。詳細を話してもらえないまま、ただ押印だけお願いしたいという“協力要請”を断ると、次に発せられたのは以下の言葉でした。
「常務からの指示です」
社内での立場を考えると強い恐怖心を覚える言葉です。また、印鑑を貸してもらえるだけでよいとのことでしたが、あらためて断りを入れて席を立ちました。「常務からの指示」は、断ると会社に反旗を翻したように受け取られかねないだけに、強いプレッシャーを感じます。同様に総務人事の担当者もまた、汚れ仕事の指示だと理解しつつもプレッシャーにさらされていたはずです。
後に分かったことですが、その会社は他部門の元社員から数百万円に及ぶ未払い残業代を請求されるトラブルを抱えていました。その後も詳しい情報は共有されなかったため、そのことが労基署による監査の直接的原因だったのかは不明ですが、理由はともあれ勤怠管理簿を捏造しようとしている時点で、不健全な組織体質であることがあらわになりました。
そんな古い不快な記憶がよみがえったきっかけは、4月27日にNHKが報じた「公立小中学の教員6人に1人 勤務時間の『過少申告』求められる」というニュースを見たことです。
ニュースで紹介されている調査によると、全国の公立小中学校の20〜50代の教員のうち17%が、この2年間に書類上の勤務時間を少なく書き換えるよう求められたことがあるとのことでした。
そのような事態に陥ってしまう背景には、業務量と勤務時間とのバランスが取れず残業過多になりがちな仕事環境があります。
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