#SHIFT

日本でいまだに横行する「勤怠記録の改ざん」「サービス残業」 不正行為を生み出す支配従属型組織とは公立小中学校教員の「6人に1人」が経験(3/3 ページ)

» 2022年05月11日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

 悪弊の1つ目は、過去の成功体験から抜け出せないことです。支配従属関係が出来上がった組織には逆らう者がいません。社員の意思に反してムリさせるのは容易で、ムリさせることで業績が上がってしまうと、それを繰り返すことで成功体験として積み重ねられていきます。

 2つ目の悪弊は、汚れ仕事を美化することです。支配従属型組織の会社は、冒頭の体験談に出てきた総務人事担当者のような社員を重宝します。不正行為のような汚れ仕事でも引き受けてくれる、最もムリが利く存在だからです。引き受ける側も、汚れ仕事を実行する限り会社から必要とされ続けることを理解しています。それどころか、汚れ仕事に手を染める自らの行いについて、会社を守るための自己犠牲だと美化し、ゆがんだ自負心を携えて不正行為の協力者として暗躍し続けます。

 3つ目は、強固な隠蔽力を持つことです。まず不正行為のような懸案事項は、支配従属関係が確実に構築されている社員にしか共有しません。社内で情報共有してよい相手を慎重に選定し、万が一外部に漏れそうな危険がある場合は、ありとあらゆる手を使って抑え込みます。不正を行うということは、隠蔽する自信があることの裏返しです。

 4つ目は、権限を持つ者が責任を取らないことです。不正行為を指示しても、いざとなれば担当者に責任をなすり付けてしまうので、権限を持つ者の立場は守られます。それを可能にするのが支配従属関係です。また責任をなすり付けられた方も、自己犠牲だと美化するのですから始末に負えません。

最後の悪弊は、改革を嫌い現状を維持しようとすることです。本来であれば、勤怠記録改ざんのような不正行為に使った労力を業務体制の改革に向ければ良いはずです。しかし、支配従属関係の“うまみ”を一度味わってしまうと、簡単にそこからは抜けられません。支配者たちにとっては、まるで麻薬です。時には表面的に改革を進めたように見せかけ、それをカムフラージュにして支配従属関係の維持に努めます。

 これら5つの悪弊は以下図のようにループし続けるため、支配従属型組織が自発的に変わる機会はなかなか訪れません。

図は筆者が作成

 社員の意思に反してムリをさせることに長けた支配従属型組織の会社は、今も日本中のあちこちに存在します。また、会社だけでなく、ニュースで報じられた学校をはじめ、あらゆる種類、規模の集団の中にも支配従属型組織は存在しています。

 しかし、今や人を支配することはとても難しい時代になりました。働き方の選択肢は増え、価値観の多様化が肯定され、SNSで誰もが発信でき、副業などによる越境も日常化しつつあります。

 人が個々につながりを持ち、自由意思に従って行動するようになると、支配従属関係を維持し続けることはどんどん難しくなっていきます。個々に異なる意思を持つ人を支配し、自由を奪おうとする考え方自体が不自然であり、前時代的なのです。その時代錯誤感は、軍事力によって他国を侵略しようとする独裁者の思想や、次々と告発されている映像業界の性被害などにも通じているように思います。

 勤怠記録の改ざんに限らず、証券会社による株価操作やトラック製造会社による排ガスデータ改ざん、電機メーカーの変圧器性能試験での虚偽数値記載など、残念ながら会社の不正行為は今も後を絶ちません。冒頭で体験談を紹介した会社は、その後社長や常務たちが結託して数億単位の粉飾決算を行っていたことが発覚し、存続できなくなりました。支配従属型組織が生むゆがんだマネジメントは、会社自体を蝕んでしまうのです。

 会社と社員の関係は、Win-Winでなければなりません。社員は自由な意思を持ち、働き方や働く場を選ぶ力をどんどん高めています。会社は、そんな社員を支配するために労力を使うのではなく、社員から選ばれるよう自らを改革する方向に舵を切らなければ、時代の変化に取り残されていくことになります。社員を不正行為に加担させるような支配従属関係を維持したがる会社など、社員にとっても会社自体にとっても、そして社会にとっても害をもたらす存在でしかないのです。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.