重要ポストなのに、後継者がいない──管理職“候補”不足の企業が始めるべき「サクセッションプラン」とは連載「情報戦を制す人事」(3/4 ページ)

» 2022年05月13日 07時00分 公開
[奈良和正ITmedia]

重要ポストの人材不足を避けるために──サクセッションプランの作成ステップ

 サクセッションプランの対象とするポストの考え方を紹介しましたが、具体的にプランを作るステップは以下の通りです。

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 簡単にそれぞれのステップについて解説します。

(1)管理するポストの決定

 まずはサクセッションプランを実施するポストを決めます。管理対象とするポストは役職のみで決めるのではなく、会社や部門にとって必要不可欠な重要ポストであるかどうか、という観点が必要です。ポストを決めたら、そのポストが果たすべき役割や職務を定め、役割を果たす人材に必要な要件を決めます。

 このフローは、人事部のみで行うのではなく、現場部門長を中心に人事部門が補佐で入り、経営層が監督をするという形式で行われることが多くあります。現場部門長が人事部の手を借りながら、ポストの定義のたたきを作成し、それを経営層、現場部門長、人事部の三者で話し合って決める、というイメージです。

(2)社員のアセスメントと選抜

 管理するポストとその要件が決まったら、該当ポストへ将来的に登用できそうな候補者を選抜するフローに入ります。既に人事システムなどで蓄積されている情報を基にした選抜ができない場合は、従業員を選抜する際に必要な人材要件に沿ってアセスメント(評価)する必要があります。

 アセスメント時に用いられることが多いものは、プロジェクトや異動歴などの経験要件や、会社独自で定めたスキル有無、スキルレベルなどです。従業員に対してこれらをアセスメントし、その情報を基に該当ポストの候補者を選抜します。  

 なお、初めてサクセッションプランを実施する際はアセスメントのステップを経ずに、まずは部門長の頭に適材として浮かんだ人を指名するケースもあります。その場合も2巡目以降でより客観的な指名、見直しを実施するためにアセスメントを行うことが多いです。

 候補者の選抜は、すぐに着任可能な人材のみを選抜するのではなく、今後の育成状況によっては登用が可能そうなポテンシャル人材も含めて選抜します。例えば、現存するポストであれば「すぐに登用可能(Ready Now)」「1〜3年後に登用可能性あり(Ready Soon)」「将来的に可能性あり(Mid Term)」などと登用可能見込み時期で分類した上で、分類ごとに候補者を選抜します。

photo ある企業のサクセッションプランにおける、後継者候補の分類例

(3)選抜した候補者群の育成

 (2)で候補者として指名された候補者群(人材プール)、もしくは、従業員ごとに育成案を作り実施します。

 育成方法は、研修などのOff-JT、異動やプロジェクトのアサインなど実務を通したOJTに大別されます。

 例えば以下のような具体的な育成計画を作成し、実行します。

  • あるReady Soonの候補者に人事スキルを習得できるよう、人事部に異動してもらう 
  • あるMid Termの候補者には経営企画部のプロジェクトにアサインし、評価に応じてReady Soonに上げられるかを検討する

(4)振り返り、調整

 育成段階では定期的に従業員をアセスメントすることで後継者候補を見直し、予定通り育成されているか確認します。

 また、これまで管理対象でなかったポストを新たに管理対象としたり、これまで管理していたポストを管理対象から外したりすることで、自社の最新の状況に合わせたサクセッションプランを実現できるようになるでしょう。

 このフェーズでは、現場部門長が「自部門のことは自分がよく分かっているから進捗(ちょく)を可視化する必要がない」という理由で見直しをしなくなり、最終的にサクセッションプラン自体が形骸化するケースが見受けられます。

 サクセッションプランが対象とするポストは、部門のみならず経営戦略上においても重要なポストです。経営陣にも本フェーズに参加してもらうといったように、施策自体の形骸化を防ぐ対策をとることが重要です。

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