重要ポストなのに、後継者がいない──管理職“候補”不足の企業が始めるべき「サクセッションプラン」とは連載「情報戦を制す人事」(1/4 ページ)

» 2022年05月13日 07時00分 公開
[奈良和正ITmedia]

連載「情報戦を制す人事」

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 企業の持続的な成長のため、上場企業をはじめとしてサクセッションプラン(後継者管理)の重要性が改めて注目されるようになりました。2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂で、取締役会がサクセッションプランに主体的に関与し、適切に監督することが求められるようになったことも一つの要因です。人的資本の情報開示のためのガイドライン「ISO30414」でも「Succession planning」という項目が設けられており、サクセッションプランの状況を開示する企業も増えてきています。

 サクセッションプランというと、CEO・経営幹部を対象とした人材育成に捉えられることもありますが、対象となるポストを考える際は「部門にとって必要不可欠なポストであるか」という観点も重要です。CEO・経営幹部以外のポストの人材不足は企業にとって大きな課題となるからです。

 本記事では、旧来のサクセッションプランの定義よりも広く、企業ごとに将来時点を考慮して決定した重要ポストを管理対象とするものとして、人材不足に陥らないためのサクセッションプランニングの方法をご紹介します。

今、サクセッションプランが注目される理由

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 サクセッションプランとは、経営戦略上の重要ポストが将来時点で欠けないように、その候補者を前もって管理することを指します。後継者管理、後継者育成計画などとも表現されます。具体的な実現の流れは以下の通りです。

  • 将来時点を考慮した重要ポストの特定
  • ポストにつく従業員の要件の定義
  • 従業員のアセスメント
  • 候補者の指名
  • 候補者(群)の育成
  • ポストと候補者(群)の定期的な見直し

 サクセッションプランは、古くは1950年代のアメリカで事業継承を目的に、CEOをはじめとしたCxOクラスの後継者を計画的に育成する施策として始まり、欧州に広まりました。

 18年には国際標準化機構(ISO)が公開した人的資本の情報開示についてのガイドライン「ISO30414」でも「Succession planning」の項目が設けられ、20年8月にはアメリカにおける証券取引を監督・監視する連邦政府機関、米国証券取引委員会(SEC)が、上場企業に対して人的資本の情報開示を義務化しています。

 日本国内では、15年、東京証券取引所がコーポレート・ガバナンスコードを策定し、取締役会の役目として「CEO等の後継者計画の監督」に関連する項目を設けました。また、20年には経済産業省が主催した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の最終報告書である「人材版伊藤レポート」でも、取締役会の果たすべき役割として後継者育成の重要性について述べられており、日本企業においても関心が高まっています。

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 前述の通りサクセッションプランとは、管理対象のポストに対して将来的な候補者を前もって明らかにし、候補者に対して意図的に配置や研修などの育成をする、という人事施策です。これには育成コストがかかり、場合によってはコストをかけて育てた従業員が転職してしまうことで投資が報われない可能性もあります。そのため、重要だからといってやみくもに全てのポストで実施すべき施策とも言い切れません。

 それでは、どのようなポストに対してサクセッションプランを行うのが特に有効なのでしょうか。

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