リテール大革命

「その発想はなかったわ」 コーセーの“化粧をしないITリーダー”が、オンライン接客を開発して気付いたこと一線引かない(2/4 ページ)

» 2022年05月23日 07時00分 公開
[酒井真弓ITmedia]

「リアルじゃなきゃ無理だよね」では何も変えられない

 コーセーでは、多様な意見やスキルを取り入れるため、部門を超えたプロジェクトチームを作る。今回も、システム部、BC、ブランド担当者などさまざまな知見を持った人材が一堂に会し、ワンチームで開発に挑んだ。

 リアル接客の場合、店舗にいるBCは実際の商品を手に取りながら、顧客とともにマッチする商品を探っていく。これがオンラインになった瞬間、接客の難易度は格段に上がる。画面を通しては化粧品の複雑な色味や質感、ましてや香りまでそのまま伝えることはできない。

 「システム部の発想では、『そこはリアルじゃなきゃ無理だよね』と諦めるところかもしれません」と、進藤さんは話す。

進藤広輔さん(コーセー 情報統括部グループ マネージャー)

 「しかし、BCの皆さんは商品説明を全て見直し、オンラインでも伝わる言葉を模索し始めたんです。僕の想像とはまるで次元が違った。『お客さまをもっとキレイにしたい』という使命感で仕事をしているBCが多いことに心をつかまれて、どうすれば単なるオンライン接客ではなく、お客さまの懐に飛び込めるサービスにできるのかと考えるようになりました」

 「WEB-BC SYSTEM」は、高精彩な映像技術によって発色や質感の再現性を高め、オフラインに近い視認性を実現したという。進藤さんはさらに、オンライン接客ならではの価値を模索中だ。「リアル接客で顧客の感覚に委ねていたことをシステム化したら面白いのでは」と力説する。

 「香りは実際にかいでみないと分からない。だからオンラインでは選びにくいですよね。でも、例えば一つの香りを成す構成要素をかみ砕いて数値化していくと、香りを定量的に分かりやすく言語化できるようになります。リアル接客で『ほら、こんな感じです』と伝えていたところを、『あなたの香りの好みにはこんな傾向があります』と、何象限かで分類して表現できたりすると、感覚プラスアルファでオンラインでも香りを提案できると思います。デジタルの力を借りるとは、こういうことだと思うんです」

「BCは誰でもいい」は間違い

 もう一つ、気が付いたことがあった。

 「お客さまは、BCの説明を参考にはするものの、自ら商品を選んで買っているのだと思っていました。言ってしまえば、BCは誰でもいいと思っていたんです。でも違いました。馴染みのBCに相談したくて店に足を運んでくれるお客さまがたくさんいたんです。

 僕はお客さまが何を求めているのか全く見えていませんでした。WEB-BC SYSTEMは、BC一人一人の個性や強みが伝わるような仕組みにしないといけない。そして、BCが接客に集中できるよう、とことん操作性を突き詰めなければいけないと思いました」

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