「WEB-BC SYSTEM」は、パートナーの力を借りながらも、できる限り内製開発を試みた。
それまでコーセーでは、社内向けシステムを内製化する一方で、顧客向けサービスの多くをITベンダーやSIerに依存していた。化粧品業界全体の傾向として、システム開発はその企業が展開するブランドごとの縦割りだ。ITベンダーやSIerが常駐してはいるものの、美容に関心が高いエンジニアは少数派。事業部との一体感は生まれにくく、顧客のニーズを取り込めているかというと、難しいのが実情だった。
進藤さんは、このような状況を生み出したくなかったという。
「化粧品を売るだけなら外注でもいいかもしれません。しかし、BCがお客さまをキレイにできていると実感でき、お客さまもBCの接客を受けて買って良かったと思えるところまで実現したいと思ったからこそ、美容に思い入れの深い社員がそろう自社で作ることにしたんです」と進藤さんは振り返る。
進藤さんはコーセーに入社するまで、化粧品を使ったこともなければ、美容にそこまでの関心もなかったという。そこからどのようにして業務知識をものにしていったのだろうか。
「僕は、自分が分からないことにものすごく惹かれるんです。僕がコーセーに入社した当時、10年、20年前に作られたままのシステムがそこにありました。それでもシステムのことなら『まあ、どうにかなりますよ』と思えたのですが、化粧品は違います。スキンケアがあって、ベースメークがあって、ポイントメークがあって。ブルベ・イエベって何?(※)って。そういうことが全く分からなかったんです」
(※)ブルーベース、イエローベースの略。個々人の肌や瞳の色などに似合う色味の傾向を指す。
進藤さんは、現場に足を運ぶことで、これまで化粧品とかかわりがなかったという弱みを補うことにした。入社して2年がたった今も、土日は売り場に半日ほど滞在し、BCの動きや客の流れを観察している。何度も通っているとさすがに顔が割れてきて、今ではBCが困りごとを話してくれるようになったという。
はじめはどれも同じように見えた化粧品。だが、ブランドごとのターゲットの違いや、接客・販促の多くが過去の経験則に基づいて行われていることが見えてくると、「ITやデータを活用すればもっといろいろできるのに」と思うようになった。
進藤さんは「WEB-BC SYSTEM」の開発現場で、プロジェクトマネジメントの世界で重視されてきた変更管理プロセスを排除し、「ニーズがあれば全部言ってくれ」を貫いたという。
もちろん予算とスケジュール、費用対効果で優先順位付けは必要だったが、門前払いは一切しなかった。その結果として、ただのオンライン接客ではなく化粧品のカウンセリングに特化した、細かい部分まで行き届いたシステムが完成した。
こうしたシステムの内製化を目指す企業は増えているが、なかなか実現が難しいという声も聞く。その理由を進藤さんはこう分析する。
「システム部が一線を引きすぎなんです。セキュリティやガバナンスを引き合いにダメ出しをするだけで、どうすればビジネスに適用できるかという議論には一切入っていかない。『それは事業部が考えること』『要件定義の段階で言われてないので無理です』とか言っている限り、本当にほしいシステム――つまり業績が上がる、抜本的に業務改善できるシステムは作れません」
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