ハラスメント問題やコンプライアンス問題に詳しい弁護士・佐藤みのり先生が、ハラスメントの違法性や企業が取るべき対応について解説します。ハラスメントを「したくない上司」「させたくない人事」必読の連載です。
日常的に部下を指導する立場にある者にとって、「適切な指導」と「違法なハラスメント」の境界は気になるところでしょう。特に、パワーハラスメントは区別がつきにくいので問題です。今回も2つの事例の紹介を通じて、ハラスメントの境界線を探っていきます。
厚生労働省はパワーハラスメントについて、6つの類型を示しています。それによると、パワハラには以下の6つの類型があります。
もちろん、この6つは大まかなくくりであり、ぴったり当てはまらないケースや、複数の項目に当てはまるケースなど、現実に起こる事例はさまざまです。しかし、大まかにどんなことがハラスメントになり得るのか知ったり、さまざまな事例を整理したりする上で、この6類型を押さえておくことは重要です。
部下の頭をはたいたり、物を投げつけたりする「(1)身体的攻撃型」や、人格を否定するような発言を繰り返す「(2)精神的攻撃型」、到底対応できないレベルや量の仕事を課す「(4)過大な要求型」は、パワハラのイメージにも当てはまり、比較的理解しやすいことでしょう。
また、「(3)人間関係からの切り離し型」は、いわゆる大人のいじめであり、特定の従業員を大勢で無視したり、会議への参加を妨害したりする場合に認められます。
これらに対し、仕事量を極端に減らしたり、誰でもできる楽な仕事のみを与えたりする「(5)過小な要求型」や、部下のプライベートな領域に踏み込み過ぎる「(6)個の侵害型」は、一般的なパワハラのイメージと少し離れているといえます。これらがパワハラに当たるのか、と意外に感じる方も少なくないでしょう。
こうした類型については、特にハラスメント研修などで取り上げて、違法なハラスメントになり得ることを周知することが大切です。
そこで今回は、「(5)過小な要求型」のハラスメント行為が違法と判断された事例をご紹介しましょう(最高裁1987年10月16日判決)。
冠婚葬祭サービスを提供するX社で、パート従業員として、衣装係に従事していたAさんと包装係に従事していたBさんは、雇い止めにあいました。AさんとBさんは、再度パート契約を締結するという内容で、X社と和解したのですが、職場に戻ってみると、門の開閉、草むしり、ガラス拭き、床磨き……などのいわゆる雑用業務のみに従事させられ、衣装や包装に関する仕事はさせてもらえませんでした。
雑用業務に従事したことにより、2人は身体を痛め、しばらくの間、欠勤を余儀なくされました。それぞれ、働けるようになってから、職場復帰を求めましたが、X社が就労の再開を認めなかったため、2人は、雇用関係の存在確認や慰謝料の支払いを求め、裁判を起こしました。
この事案において、裁判所は、雇用関係が存在することを確認した上で、専ら雑用業務に従事させたことは不法行為(違法なパワハラ)であると認め、X社はAさん・Bさんそれぞれに対し、30万円の慰謝料を支払わなければならないと判断しました。
不法行為(違法なパワハラ)と認めるにあたり、裁判所は、
などを考慮しています。
会社としては、( i )本来予定されていた仕事内容を、労働契約書などの書面で確認し、その記載から一般的に想定される業務を任せるようにしましょう。今回のように、全く関係のない雑務のみを任せるのは危険です。
また、( ii )必要性のない雑務や、それぞれの部署で担当すれば良い事務作業などを、あえて特定の従業員にのみ任せることは避けましょう。そのような仕事は「見せしめ的」と評価され、( iii )屈辱感を与えるものとして、違法なハラスメントになってしまう可能性が高いです。
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