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「雑用ばかりさせるのはパワハラ」 裁判所の“意外”な判断、その理由とは弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」(2/2 ページ)

» 2022年05月31日 11時30分 公開
[佐藤みのりITmedia]
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新卒23歳女性と交際する38歳男性を「あいつは危険人物」

 「(6)個の侵害型」のハラスメント行為に関する事例もご紹介しましょう(福岡高裁2013年7月30日判決)。

 社内で出会い、男女交際を始めたC子(当時23歳の女性)とD男(当時38歳の男性、離婚歴あり)でしたが、D男の女癖が悪いと感じていたE課長(C子とD男とは別部署)は、D男に対し、「入社して右も左も分からない若い子を捕まえて、だまして。お前は一度失敗しているから悪く言われるんだ」などと言いました。

 また、C子に対しても、「あいつ(D男)は危険人物だぞ。これまでもたくさんの女性を泣かせてきた」「もっと他に友達を作って何でも相談するようにしなさい。自分を飲みに誘ってくれてもいい」などと話すなど、二人の交際に介入しました。これに対し、D男は、E課長からパワハラを受けたなどとして提訴しました。

「慰謝料30万円」の根拠

 裁判所は、E課長の言動を不法行為(違法なパワハラ)と認め、慰謝料30万円の支払いを命じました。その際、C子とD男はいずれも成人であり、交際は当人らの自主的判断に委ねられるべきであるから、職場への悪影響が生じ、これを是正する必要がある場合を除き、E課長は交際に介入する言動を避けるべき職務上の義務があると指摘しています。

 その上で、E課長の言動は、D男さんに対する誹謗中傷、名誉毀損、あるいは「私生活に対する不当な介入」であるとして、違法性を認めました。

 このように、パワハラにはさまざまなタイプがあるので、6類型も意識しながら、多くの事例を整理しつつ、研修などで周知することが大切です。

著者プロフィール

佐藤みのり 弁護士

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慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。ハラスメント問題、コンプライアンス問題、子どもの人権問題などに積極的に取り組み、弁護士として活動する傍ら、大学や大学院で教鞭をとり(慶應義塾大学大学院法務研究科助教、デジタルハリウッド大学非常勤講師)、ニュース番組の取材協力や法律コラム・本の執筆など、幅広く活動。ハラスメントや内部通報制度など、企業向け講演会、研修会の講師も務める。


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