よかれと思って導入「勤務間インターバル」が、“大きなお世話”になってしまう理由なぜ?(1/2 ページ)

» 2022年06月03日 07時00分 公開
[大槻智之ITmedia]
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 「勤務間インターバルって社員のウケはさほど良くないんですよね」

 こう話すのは、社員数10人のIT関連事業を営む新井さん(仮名)です。コロナと同時にほとんどの社員を在宅勤務にした新井さん。もっと職場環境を良くしようと思い勤務間インターバルを導入しようと考え、オンラインで社員から意見をもらったそうです。そこで、新井さんは予想外の意見を耳にすることになりました。

 なぜ、勤務間インターバルは“大きなお世話”な制度になってしまうのでしょうか。勤務インターバルとは何か、運用方法と合わせて解説します。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

労災が20年ぶりに改正、加わった「勤務インターバル」という考え方

 2021年9月、労災認定基準が実に20年ぶりに改正されました。見直されたのは脳・心臓疾患の認定基準で、過労死ラインと呼ばれるものです。従来は労働時間の長さで判断していたのですが、その時間に達していない場合でも、労働時間以外の負荷も考慮して認定することとなったのです。

 これまでは「発症前1カ月間に100時間または2〜6カ月間を平均して月80時間を超える時間外労働が認められ、業務と発症の関係が強い場合」に労災と判断されていました。改正後は、この基準に達していなくとも、一定の労働時間以外の負荷要因があるのであれば、業務と発症の関連性が強いと評価し、労災認定することとしたわけです。

負荷要因とは?

 労働時間以外の負荷要因には次のようなものがあります。

(1)勤務時間の不規則性

(2)事業場外における移動を伴う業務

(3)心理的負荷を伴う業務

(4)身体的負荷を伴う業務

(5)作業環境


 中でも(1)勤務時間の不規則性には拘束時間の長い勤務や交代制勤務・深夜勤務など不規則になりがちな勤務が挙げられていましたが、改正により休日のない連続勤務および勤務間インターバルが短い勤務が加えられたのです。勤務間インターバルとは終業から次の勤務の始業までのことです。これが11時間未満であれば“勤務間インターバルが短い勤務”となるわけです。

勤務間インターバルとは何なのか

 勤務間インターバルとは、仕事を終了してから次の仕事を始めるまでの時間のことです。例えば、9時〜18時の職場で、18時に仕事を終えて、翌日9時から仕事を開始する場合の勤務間インターバルは15時間となります。15時間あると、食事や入浴、趣味の時間に睡眠時間まで十分に確保できるでしょう。しかし、この時間が短いということは仕事をしている時間が長くなり、リラックスできる時間が短くなっているということになります。

 EU加盟諸国では義務化されているこの制度。実は日本でも2019年に施行された「労働時間等改善法(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法)」において規定されています。ただし“努力義務”として規定されているので、実際に導入している企業は5%未満にとどまっています。それどころか、80%以上の企業が「導入予定はなく、検討もしない」と回答しています(厚生労働省2021年就労条件総合調査より)。

勤務間インターバルの運用

 労働者にとって勤務間インターバルはワークライフバランスを実現するための後押しになることは間違いないでしょう。会社のルールとして定めるので、ある意味、強制的に休息が確保できることになるからです。

 一方、企業からすると、過重労働の抑制として一定の効果を発揮するでしょう。理由としては非常にシンプルな制度のため、現場で運用しやすいからです。例えば、勤務間インターバルを11時間と定めておけば、終業時刻から11時間は出勤できないというだけのものなので、労働者も上司もどちらにとっても分かりやすい制度なので運用がしやすいというわけです。

管理職のマネジメント

 会社が勤務間インターバルを制度として設けていようがいまいが、一定以上の割合で終業時刻から次の始業時刻まで11時間以上確保できていなければ過重労働として認定される可能性があります。つまり、経営者も現場の管理職も従来のように単に1カ月の労働時間だけを把握していてはダメだということです。安全配慮義務を果たすには労働者ごとの日々の勤務状況を把握し、調整を指示しなければなりません。そうなると、いっそのこと制度として勤務間インターバルを導入してしまった方が手っ取り早いと考える企業も多くなるかもしれません。

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勤務間インターバルが“大きなお世話”になってしまうケース

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