「年俸制」は企業と労働者、どちらに有利な制度なのか?ヒントは社会保険料(2/3 ページ)

» 2022年06月03日 08時00分 公開
[佐藤敦規ITmedia]

年俸制を導入した場合、社会保険料はどう変わる?

 年収が900万円以上などの高額な場合は、賞与を含まず月給のみで12等分したほうが会社は社会保険料の負担を減らせますし、社員の手取りも増やせます。健康保険・厚生年金保険では、労働者が企業から毎月の支給される給料の月額を区切りのよい幅で区分した標準報酬月額と税引き前の賞与総額から1000円未満を切り捨てた標準賞与額を設定し、保険料の額を算定します。

 厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円。それ以上の月給をもらっても、支払う厚生年金の額は同じ。年収900万円を12等分した75万円ではなく、65万円として扱われます。

標準報酬月額の決定および改定(画像:日本年金機構公式Webサイトより)

 年収900万円を月額75万円、12等分で支給される場合と、月給50万円×12カ月分と150万の賞与が2回支給される場合、労働者が支払う年間の厚生年金額は次のように異なります。

・月給75万の場合

 標準報酬月額65万円の厚生年金保険の個人負担額は1カ月5万9475円ですので、これに12を乗じると71万3700円になります。

・月給50万円と賞与150万を2回支払う場合

 標準報酬月額50万円の厚生年金保険の個人負担額は1カ月4万5750円ですので、これに12を乗じると54万9000円になります。賞与の150万円に対しては、9.15%の13万7250円の2回分ですので27万4500円となります。54万9000円に27万4500円をプラスしてトータルで82万3500円になります。

【注釈:厚生年金保険の保険料率は、年金制度改正に基づき2004年から引き上げられてきたが、17年9月を最後に引き上げが終了し、18.3%で固定されている】

 年俸制のほうが、82万3500円−71万3700円で10万9800円と厚生年金の支払額が少なくなります。つまり手元に残る金額が増えるのです。年収900万円というとビジネスパーソンの中でも上位に位置づけられる高収入といえますが、年収に応じて税金も増えるので豊かになったという実感がわかない人も多いのではないでしょうか。そうした状況で約11万円も手取りが増えるのはよろこばしい話です。社会保険料は、企業と労働者で折半しますのでもちろん企業側の負担も減らせます。

 ただ年金の支払額が減ることは、将来もらえる年金額の減少を意味しますので留意しなければなりません。こうした事情も考慮して年間の総支給額を16等分して、そのうちの4ヶ月を賞与として2回に分けて支払う会社もあります。手取りが減る場合もありますが、老齢年金の額を増やすのであればこういった方法もあります。

年俸制は社員にとって有利

 年俸制は、賞与がないため月給制と比較して給与への影響が小さいです。収入の目途が立つので労働者にとっては、月給制より有利な制度といえます。企業側としては、採用活動においてこの点をアピールしてもよいでしょう。

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