佐賀県の負担金は? ゲーム理論で導き出した「九州新幹線西九州ルート」杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/7 ページ)

» 2022年06月04日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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 都市間を結ぶ鉄道は属地主義でもよかった。負担に見合った便益があるからだ。利用者数に偏りがある路線は属地主義では不公平感が出る。新幹線の枠組みも属地主義から応益主義に転向すべきではないか。そして国の応益が大きいのであれば、国が応益に応じた負担をすべきだ。「地方につくってやるから地方が金を出せ」というやり方は横暴に見える。国のためにつくるなら国が金を出すべきだ。

 応益を判断するに当たり、便益に関する情報が提供されないという状況もおかしい。相手を説得するために必要なデータは使ったほうがいい。

 国と佐賀県の「幅広い協議」は6回開催され、この6月で開始から2年になる。しかし両者の考えが噛(か)み合っていない。フル規格新幹線にこだわらず、選択肢をすべて検証していくとして始まったけれども、6回目の協議資料を見ると、佐賀県はフリーゲージトレインに固執している。「たとえ現在は課題が多くとも、課題解決まで気長に待つ。それまでは対面乗り換えで差し支えない」という。一方、国は「フリーゲージトレインは技術的に困難」という立場を崩さない。平行線のままだ。

 すぐにフル規格で開通した場合と、フリーゲージトレインを待ち、対面乗り換えを続けた場合、それぞれの便益と費用を元にゲーム理論で決着をつけた方が良いように思う。意地を張り合うように見えるけれど、冷静で理論的な選択をしてほしい。

冒頭で示した表を再掲する。ここまで算出された経緯を踏まえて数字を確認してほしい。6月2日現在、この論文はネットで公開されていない。学術論文として、いずれしかるべきところで公開されるはずだ

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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