ゲーム理論を進める上で必要なデータは3者の便益額だ。しかし国は新幹線建設について、通過する県ごとの便益データを算出していない。あるいは公開していない。常識的には「費用分担について、あなたにはこれだけのメリットがあるから、これだけ出資してください」という話があってしかるべきだ。しかし国はそれをしない。
以前、福岡市で開催されたパネルディスカッションのあと、関係者に聞いたところ、「新幹線は国益のためにあり、その中には佐賀県の便益も含まれている。だから路線単位の便益だけで十分だと考えている」という。
「国が大半の建設費を負担し、佐賀県の負担は極端に少ない。新幹線はいわば国から佐賀県へのプレゼントのようなもの」とでもいいたい様子だった。お話にならない。本当は佐賀県に便益がないことが明らかになることを恐れているかもしれない。これでは佐賀県が納得できるわけがないし、今後、ほかの新幹線でも同様に反対する自治体が現れるかもしれない。
それでもゲーム理論を進めるためには長崎県、佐賀県の便益データが必要だ。そこで別府氏は独自に便益額を推計する作業から始めた。データの根拠は国土交通省が公開している「全国幹線旅客純流動調査」だ。1990年から15年までの「代表交通機関別居住地」と「旅行先」データを使った。このデータの最新版は15年度調査のため、都道府県が公開する18年の市町村民経済計算データなどを合わせ、4段階推定法を用いて佐賀県・長崎県の需要の変化を推定し、さらに消費者余剰法によって各県の便益額を導き出す。
この手法であれば国土交通省でも容易に各県の便益額を算出できるし、おそらくすでにデータを得ているだろう。また、環境面や在来線運行本数低下による踏切支障の解消なども含める必要があるかもしれない。ともあれ、交通面の便益だけでも算出できた。ゲーム参加者それぞれの便益額は、国が4290億円、佐賀県が926億円、長崎県が905億円だ。
ゲーム理論による佐賀県の負担額は582億円。便益は926億円。B÷Cは1.59。佐賀県はどう感じるだろう。悪い話ではない、と私は思う。
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