国際食糧農業機関(FAO)によれば、世界の海で持続可能な水準にある漁業資源は1990年に8割だったが、27年後の2017年に66%まで減少している。その一方で、地球の人口は増えて途上国も食生活が豊かになっていることで、世界中で水産資源の乱獲が問題になっており、このままいけば魚や貝をめぐって醜い争いが勃発しそうな勢いなのだ。
その中でも深刻な水産資源不足に陥ると言われているのが、実は日本だ。スーパーに山ほど魚介類があふれ、安くてうまい回転寿司店もそこら中にあるので、「四方を海に囲まれている日本は水産資源が豊富」と勝手に思い込んでいる人が多いが、魚介類の自給率は1964年の113%から激減して、2019年は56%と、ほとんどが中国など外国産に頼っている。
つまり、価格高騰や国際情勢によって、日本はすぐにでも水産資源が「足りない」状況になってしまうのである。
この脆弱(ぜいじゃく)な水産資源供給体制が、さまざまな不正のトリガーになっている可能性が高い。企業や事業者が不正に走るのは、往々にして「足りない」という問題に直面したときだからだ。
筆者は報道対策アドバイザーとして、不祥事企業の内部を観察する機会が多くある。そこでさまざまな不正のパターンを見てきてハタと気付いたのは、多くのケースの原因を突き詰めていくと、そこにはほぼ例外なく「足りない」という問題があることだ。
例えば、経営層が掲げた目標に対して、実際の数字が足りない会社では、東芝のように「利益の水増し」や粉飾が起きやすい。また、仕事量に対して人が圧倒的に足りない会社では、過重労働やパワハラなどの労務問題が起きやすい。ノルマに対して生産量が足りない会社や、理想に対して技術力が足りない会社は、帳尻を合わせるための品質データ改ざんなどが起きやすい。
「足りない」という現実を素直に受け入れて、頭を下げればいいのだが、不祥事企業の多くは「足りない」という事実をゴマかすだけでなく、さらにそれをどうにかねじ曲げて「足りている」にしようとする。
これはドラマのように残業やチームワークで達成できるようなものではない。となると、体裁を整えるために残された道は「インチキ」しかない。数字をゴマかすか、品質をゴマかすか、従業員を犠牲にするかという裏技で、表面的には「足りている」という方向へ無理にもっていくのだ。
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