ベンチャーの成長のカギを握る存在、CFO(最高財務責任者)。この連載では、上場後のスタートアップの資金調達や成長支援を行うグロース・キャピタルの嶺井政人CEOが、現在活躍するCFOと対談。キャリアの壁の乗り越え方や、CFOに求められることを探る。
「CFOの意思」第3回の対談相手は、ランサーズで執行役員CFOを務める小沼志緒氏。「上場直前までトラブル続き」だったというIPOから学んだ、IPOでやるべき2つのこととは。「CFOになる」ことを目指してキャリアを歩んできたのはなぜなのか?
前編では、直前まで好調だったマーケットが急変し、IPO直前に調整に奔走した際のエピソードや、上場後も続くベンチャーならではの苦悩、「CFOになりたい」という大学時代からの夢のために、どのようなキャリアを選び取ってきたのかをお伝えする。
嶺井: ランサーズは2019年12月にIPOを果たされましたが、想定通りにことが進んだのでしょうか。それとも何かしらの壁がありましたか。
小沼: IPOに至るまでは壁の連続でしたし、上場直前の公開価格(上場時の株価)決定まで想定外のトラブルが多くとても苦しみました。
ランサーズに入社する前にもリクルートでIPOに事務局として関わる経験があったので、プロセスは理解していましたが、ランサーズのCFOとしてIPOをする上ではリクルートでは全く経験しなかった壁もたくさんありました。例えば、リクルートでは4社が主幹事でしたし、企業が大きかったので対等な立場で進めやすく、主幹事証券会社間でどのようにバランスを保つか、ということに焦点を置いて進めていました。
しかし、ランサーズは小さなベンチャー企業。当時、従業員も200人程度で、どのように証券会社に振り向いてもらうか、というところから始めなければなりませんでした。
嶺井: 立場が弱い分、発行体にとって納得しづらいオーダーがきてしまったり、予想していなかったバリュエーションにされてしまったりということもありそうですね。
小沼: IPOの直前まではマーケットが好調でしたが、直前に上場した会社の上場後の株価が軟調に推移したことなどの影響で、私たちへのバリュエーション目線も保守的になりました。このことでバリュエーションを切り下げざるを得なくなり、売り出し予定だった株主のみなさまにはご迷惑をおかけしたほか、リクルートの時には想定できなかったようなトラブルが最後まで続きました。IPOの経験は2度目でしたが、とても苦しい経験の連続でしたし、今振り返っても反省すべきことはたくさんあります。
嶺井: ベンチャーキャピタルも、投資家から預かったお金を運用しているので、すんなり「バリュエーション目線が下がってもいいよ」とはいえないですもんね。どのように納得していただいたのですか。
小沼: 納得してくださったかは、今となっては分かりません。私の立場からは、株主のみなさまに対するIPO成功のためのご協力の依頼と、状況の正確なご説明しかできませんでした。各社の担当者のみなさまには社内で急ピッチで調整いただく必要が出るなど、本当にご迷惑をおかけしてしまいましたが、経験豊富なみなさまにサポートいただきなんとか間に合わせた形です。
こうした経験からいえるのは「IPOする時には、百戦錬磨のベンチャーキャピタルを株主として巻き込むと良い」ということと、「競争環境を保てるので、主幹事は2社以上アサインする方がフォーメーションとして心強い」ということです。
嶺井: そういった苦難を乗り越えて、上場を実現したというわけですね。
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