嶺井: 上場後は順風満帆だったのでしょうか。
小沼: いいえ、引き続き苦労の連続です。特に毎年苦労しているのは予実(予算と実績)の部分ですね。投資家の方々にお約束した数字で着地させるようコントロールするのが、毎年苦労している部分となっています。
なぜそれが大変かというと、大企業と違いベンチャー企業では、外部環境に応じてやるべきことがどんどんアップデートされるという特性があります。それは新たな機会が生まれているということでもあり、ベンチャーの良い面ではあります。しかし一方で、投資家に一定の精度で見通しを伝え、その見通しを実現するという投資家への説明責任も果たさなければなりません。
「やると決めたことを、まず守りましょう。それができてから、次のチャレンジをしていきましょう」と社長や事業部側に要請しつつ、一方で一度決めたことに固執することでチャンスをみすみす逃してもいけない。常に冷静な判断と、その判断を投資家に納得いただけるようコミュニケーションをしていく責任が生じます。
リスクを取るか、機会をとるか、どのような優先順位で意思決定するか、そしてそれを投資家へどのように伝えるのか。このバランスを取っていくのが大変だと、上場してからなお一層、感じているところです。
嶺井: 投資家と向き合い、経営陣にフィードバックする小沼さんの立ち位置ならではの葛藤といえそうですね。
その他にも、CFOとしての葛藤にはどのようなものがありますか。
小沼: ベンチャー企業なのでCFOの裁量範囲がとても広く、その影響力も大きいため、正しい解を模索することが、日々のチャレンジとなっています。CFOとして、会社の道しるべを正しく描けているのだろうか、とずっと葛藤していますね。
分かりやすいテーマを挙げると、黒字と赤字とのどちらの事業計画を策定すべきか、という問題です。黒字で低成長と赤字で高成長のどちらが正しいのか? という問いに、普遍的な解があるわけではありません。その時々の市場観にもよりますし、投資家のセンチメントによっても正しい選択が変わってきます。このようなテーマについて、なるべく正しく先を読み、なるべく正しい方向に会社を導く。そのため、常に頭を悩ませています。
5年ほど事業計画策定を経験している中で、毎回新しい気付きがありますし、まだまだだなと感じることが多いですね。
嶺井: おっしゃる通り、トレンドがあり、投資家から成長投資を評価されることもあれば、逆に利益を出してほしいというコンサバな時期もある。それを見極めながら、自社の成長戦略とどうリンクさせていくのか、またそれをどのように投資家に伝えるのか、悩ましいですね。
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