LGBTの社員への対応 会社が責任を問われるリスクがあるのはどんなケース?弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」(2/2 ページ)

» 2022年06月30日 13時00分 公開
[佐藤みのりITmedia]
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家族にも隠していた性的指向を、第三者が勝手に暴露

 また、いわゆる「アウティング」の問題もあります。アウティングとは、性的少数者本人の同意を得ずに、その者の性的指向や性自認を第三者に暴露することです。ここで、アウティングに関する裁判例を1つご紹介します(東京高裁20年11月25日判決)。

 Cは男性の同性愛者(ゲイ)でしたが、家族にもそのことを隠していました。Cが、同じ大学院に通う同性のDに交際を申し込んだところ、Dはこれを断りました。Dは、断った後もCが変わらぬ態度で接してくることに困惑し、同級生らのグループLINEに「俺もうお前がゲイであることを隠しておくの無理だ。ごめん」という投稿をしました(アウティング)。

 アウティングにより、周囲から差別を受けるのではないかなどの不安に悩まされるようになったCは心身の不調が生じ、授業にも出られなくなっていきました。Cは学校の相談室に相談しましたが、クラス替えなどの措置が取られることもないまま、校舎から転落死しました。

 Cの両親は、大学の安全配慮義務違反などを理由に訴訟を起こしました。なお、Dに対する訴訟も提起しましたが、こちらは和解により終了しました。

安全配慮義務違反と認められたのか?

 一審の裁判所は「大学側は転落死を予見できなかった」「Cはクラス替えを希望しない決断をしていた」などとして、大学の安全配慮義務違反を否定し、Cの両親の請求を認めませんでした。二審も一審同様、大学側の安全配慮義務違反を否定しましたが、アウティングについては「人格権ないしプライバシー権などを著しく侵害する許されない行為」として違法性を認めました。

 性的少数者から「恋愛感情」や「性的少数者である事実」などを告白された人は、少なからぬ精神的ショックを受け、その結果、違法なハラスメントやアウティングにつながる可能性があります。会社としては、従業員が性的少数者に対して違法な行為をしないよう、予防に努めることが大切です。LGBTQに関する研修を取り入れ、性的少数者に対する従業員全体の理解を深めていくことは、1つの有効な予防策だと思います。

 また、今回取り上げた裁判例では、会社や学校側の安全配慮義務違反が認められませんでしたが、会社が性的少数者に対する対応を誤ると、そのこと自体が違法になる可能性があります。性的少数者であることを理由に、労働条件について不利益を与えるなどはもってのほかですが、その他、LGBTQについて正しい知識を持った人が相談へのにあたるようにするなど、さまざまな工夫が求められるでしょう。

著者プロフィール

佐藤みのり 弁護士

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慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。ハラスメント問題、コンプライアンス問題、子どもの人権問題などに積極的に取り組み、弁護士として活動する傍ら、大学や大学院で教鞭をとり(慶應義塾大学大学院法務研究科助教、デジタルハリウッド大学非常勤講師)、ニュース番組の取材協力や法律コラム・本の執筆など、幅広く活動。ハラスメントや内部通報制度など、企業向け講演会、研修会の講師も務める。


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