同様に、トランスジェンダーの中には、心の性に合わせた服装を希望する人もいます。性別により異なる制服の着用が求められている職場では、トランスジェンダーの従業員から、心の性に合わせた制服を着たいという申告がなされることもあるでしょう。
このような場合にも、会社は本人とよく話し合うことが大切です。職種や仕事内容、本人の外観、認めた場合の業務への影響など、さまざまな事情を考慮して、できる限り、本人の希望に配慮した対応を考えましょう。
会社が指定した制服を着用しないことを理由に、解雇や降格などの不利益処分を行った場合、後から処分の有効性が争われる可能性があります。トランスジェンダーの従業員に対し、女性の容姿で就労しないよう服務命令を出し、それに従わなかった従業員を懲戒解雇にした事案で、裁判所は服務命令を「社内外への悪影響を憂慮し、当面の混乱を避けるためになされたもの」と認めた一方、懲戒解雇については「懲戒解雇に相当するほどの悪質な企業秩序違反とは認められない」として無効としました(東京地裁02年6月20日判決)。
トランスジェンダーが心の性に合わせた服装を希望することは、理由のあることなので、希望に合わない命令をした場合、特に違反した際の処分については慎重になる必要があるでしょう。
社会の多数派に属さない人は、周囲からなかなか理解されず、多数決の場面でも尊重されにくく、苦しい立場に置かれています。本人の抱える苦しみに共感しながら、会社の規律との間でバランスを取っていく姿勢が大切だと思います。
佐藤みのり 弁護士
慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。ハラスメント問題、コンプライアンス問題、子どもの人権問題などに積極的に取り組み、弁護士として活動する傍ら、大学や大学院で教鞭をとり(慶應義塾大学大学院法務研究科助教、デジタルハリウッド大学非常勤講師)、ニュース番組の取材協力や法律コラム・本の執筆など、幅広く活動。ハラスメントや内部通報制度など、企業向け講演会、研修会の講師も務める。
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