クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ハンドル握る位置、昔10時10分、今9時15分のワケ高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)

» 2022年07月25日 14時26分 公開
[高根英幸ITmedia]
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9時15分グリップは、他にもこんなメリットが

 9時15分位置に親指をかけると、腕の重さが軽減されて握る力も少なくて済むので楽になり、肘も曲がっていればそこから伸ばすのは自然なので操舵力が少なくて済む。さらに押して操舵することにより身体がシートに押し付けられて、コーナリング中の身体が安定する。これらは大きなメリットだ。9時15分グリップのメリットは、それだけではない。

 筆者も実践しているから分かるのだが、シートとハンドルの位置を自分の体格に合わせて9時15分グリップを実践すると、直進状態でも身体がシートに自然に押し付けられる。背中でも体重を支えることになるので腰への負担が少なくなる。

 身体が疲れにくいだけでなく腰痛予防にもなり、安全で快適な走行が続けられる。走行時間や距離が長くなるほど、正しい運転姿勢の効果が発揮される。

レベル5の完全自動運転が実用化されれば、ドライバーはハンドル操作から開放されることになり、移動中も読書やエンターテインメントを楽しむことができる。今すぐにそれを望むならタクシーアプリを利用するしかないだろう

 ハンドルを握る位置が決まっていないような人も見かけるが、そういった人はたいてい大きく舵角を与える時のハンドル操作はドタバタと何度も握り直すことが多い。それを嫌って交差点などでは一度外側に膨らんで大きく曲がるあおりハンドルをしてしまうドライバーもいるようだ。

 あおりハンドルを習慣にしてしまうと、左折時に右側を通過する車両と接近してしまったり、対向車が来ている時にも外側に膨らんでしまうなど危険な状態を作り出してしまう可能性が高まる。自分の都合で周囲を危険にさらすような運転はドライバー失格であるから、交通事故を起こす前に改めるべきだ。

 運転を見直す、運転のために努力する習慣をつけることが、長く安全にクルマを運転することにつながる。そこには何十年運転している、とか無事故歴などあまり関係ない。自分の身体能力や認知力が低下し始めているのであれば、過去の実績はほとんど意味を持たないことに気付くべきなのだ。

 今年から75歳以上の運転免許更新には違反歴によって実技検査が加えられることになった。これを皮切りに、高齢ドライバーだけでなく、全ドライバーの運転免許更新の厳格化を進めるようにしていくべきだろう。

 完全自動運転の実現までは、まだ相当な時間がかかる。それまではドライバーが責任をもって運転を続ける必要があるのだ。

 たかがハンドルの握る位置くらいで……と思われるかもしれないが、その考え自体が緩く危険であることに気付いてほしい。クルマは便利で運転は楽しいものである一方、公道で交通事故を起こせば厳格なまでに責任がのし掛かるのである。

筆者プロフィール:高根英幸

芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。


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