クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

部品供給の構造問題と国内回帰という解決策 自動車各社決算の読み解き方池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2022年08月15日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

部品生産の国内回帰はあるか

 となると浮上するのは日本である。自動車メーカー各社は日本に最終組立ラインがあるので、日本がロックダウンになれば部品があっても作れない。それは日本だけというわけではないが、要するに最終組立ラインのある場所は、最終防衛ラインである。となると、分業している部品の一部を日本に生産に移管するという可能性が出てくる。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

 先日トヨタの豊田章男社長にその可能性を質問したところ、日本への生産移管を検討し始めているという。考えてみれば、日本は長らく人件費水準が上がっていない。われわれはついこれまでの慣習で「日本の人件費は高い」と考えがちだが、中国も人件費が高騰している中で、もはや日本の人件費はそれほど高くなくなった。

 加えて、例えばトヨタならば、メーカー自ら技術者を派遣して、サプライヤーでのコストダウンを共同研究して、ものの作り方を変えることで、更なるコストダウンが可能かもしれない。カイゼンは遠隔地でやるより、日本国内での方がその精度は高められる可能性が高い。さらに、経済安保的側面で見ても、台湾問題に起因する地政学的リスクに関しても部品生産の日本回帰はメリットが大きい。

 もちろん根こそぎ日本へというのは無茶な話だが、選択的に上手く組み合わせれば、そこには十分に可能性がある。例えば、昨年大きな問題となったインドネシア生産のワイヤーハーネスを例に挙げよう。これを全部日本に回帰させるのは難しいだろうが、例えば20%だけ日本で生産すれば、インドネシアがロックダウンになっても、20%は生産可能になる。もし日本でその生産を請け負ったサプライヤーが、倍の生産量まで耐えられるのだとすれば40%を維持することが可能になる。

 仮に1個1000円のワイヤーハーネスを、1000個作ると100万円だ。80%は従来通り1000円のコストでインドネシアで作り、残り20%を2000円で日本で作ったとしても、1000個トータルのコストは120万円で済む。こういうやり方なら価格への影響は限定的だろう。価格差が縮むごとに日本生産の比率を高めていけばいい。

 こうした考え方をベースに置きつつ、さらに戦略的に考えれば、メーカーにはメーカーごとに会社の屋台骨を支える車種がある。こうしたクルマについて重点的に部品の二重調達化を進めるとしたら、リスクは大きく下げられる。

 そう考えると、今回の部品不足問題は、バブル期に一度空洞化が進んだ日本のものづくりを、海外生産から部分的に取り戻し、日本経済を復興させるきっかけになるかもしれない。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.