ライブビューイングは廃れるか バンダイナムコのライブエンタメ戦略を聞いたデジタルの利点を追求(1/4 ページ)

» 2022年09月07日 05時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 ゲーム・玩具・アニメーションの分野を中心に日本を代表するエンターテインメント企業、バンダイナムコグループ。グループ内では『機動戦士ガンダム』シリーズや、アイドル活動をテーマにした『アイドルマスター(アイマス)』『ラブライブ!』『アイカツ!』の各シリーズ作品に加え、誕生から27年以上続くRPG『テイルズ オブ』シリーズなど、数々の一大コンテンツを抱える企業だ。

photo Aqours

 国内全てのエンターテインメントにおける消費者の支出喚起力を順位付けした「支出喚起力ランキング」(博報堂)では、2021年 は『ラブライブ!』が182億円で9位、『ガンダム』シリーズは134億円で14位に入っている。音楽ライブエンターテインメントに大きな影響を与えたコロナ禍以前の18年には、1位の「嵐」に続く形で『アイマス』シリーズが2位、3位に『ラブライブ!』シリーズがランキング入りすることもあった。

photo THE IDOLM@STER

 こうしたバンダイナムコグループの作品が一同に集い、音楽ライブをするイベントが「バンダイナムコエンターテインメントフェスティバル(バンナムフェス)」だ。1回目が2019年10月に東京ドームで開かれ、2日間で約10万人を動員した。

 1回目の公演直後、第2回を同じく東京ドームで2020年に開催する発表がされたものの、20年に入り新型コロナウイルスの感染拡大により開催が延期。その後21年2月に東京ドームでの開演を予定していたが、21年に入りデルタ株のまん延による緊急事態宣言が発令されたことにより、さらなる開催延期を余儀なくされた。

 その後21年12月に、バンダイナムコは22年5月14・15日に千葉市幕張地区にあるZOZOマリンスタジアムでの開催を決定。“3度目の正直”という形で晴れて開催された。バンナムフェスでは『アイマス』や『ラブライブ!』『アイカツ!』シリーズなど、バンダイナムコグループから生まれたアイドルが楽曲を披露した。

photo アイカツ!

 加えて『機動戦士ガンダム』シリーズ作品や『テイルズ オブ』シリーズのテーマソング・主題歌を担当したT.M.Revolution/西川貴教や、DEEN、LUNA SEAなどといった音楽アーティストによる曲も演奏された。ライブ公演時間もフェスの名にふさわしく、2日間で10時間以上にわたった。

photo DEEN

 こうしたアーティストの垣根を越えた音楽フェスはレコード会社やライブエンタメ専門の企業が主催することが多く、アニメやゲームの作品や楽曲の権利を持つ企業が主催するのは異例だ。

会場内にキッチンカーや飲食スペース

photo T.M.Revolution/西川貴教

 なぜ、バンダイナムコグループが音楽フェスを展開するのか。その独自の狙いは何か。バンナムフェスでライブ配信を中心に事業計画を手掛けたバンダイナムコエンターテインメント・クロスメディア課の吉本行気さんにインタビューした。

photo 吉本 行気(よしもと たかおき)バンダイナムコエンターテインメント クロスメディア課 マネージャー。ゲーム、音楽サービス、オフショア開発からキャリアを開始。ゲーム関連企業役員を経て2020年参画。自社配信プラットフォーム、自社EC、MIRAIKEN studio、メタバース、Web3などエンタメの最新領域進出の責任者として事業を推進

――音楽フェスといえば、「サマソニ」や「フジロック」などが著名ですが、ああいう野外のロックフェスも参考にしているのでしょうか。

 そうですね。キャストではない音楽アーティストも出演いただいているので、参考にしています。バンナムフェスに来られる方は、それぞれの作品のキャスト主体のライブに行く方が多いのですが、こうした方たちに、今回ですとmisonoさんやDEENさんやBACK-ONさんといったアーティストの演奏を聴いていただけました。

 日ごろ足を運ぶであろうコンサートにはない「非日常感」を味わうきっかけになるわけなんですよね。

 もう一つは、サマソニやフジロックにもある「フェス感」を大事にしたいと考えています。普段のライブだとライブ会場で飲食を楽しむことは普通しないと思うのですが、こうしたロックフェスでは、会場で食事をしたりお酒を飲んだりできる開放感もあります。

 フジロックなどは会場でキャンプもできるわけです。こういう開放感は一つのヒントにしています。他の普段のライブにはない魅力として、今後も大事にしていきたいと考えています。

photo misono
photo アイドルマスターミリオンライブ

――今回は会場が東京ドームからZOZOマリンスタジアムの屋外になったことで、普段は屋内で実施する声優主体のライブが新しい演出になりました。公演時間も1日あたり5時間超に及んだことで、会場の環境も昼過ぎから夕方、ペンライトが輝く夜中へと変化を見せました。2回にわたる延期の末、ZOZOマリンスタジアムに会場が変えたのは、こうした意図もあったのでしょうか。

 もともとバンナムフェス2ndは東京ドームでやる予定で、屋外のマリンスタジアムで開催することになったのは、当初の予定ではありませんでした。ただ、屋外で長時間やったことによって普段のライブにはない非日常感と開放感を演出できたことは、結果的として非常に良かったと思います。

photo 以下アイドルマスターシャイニーカラーズ

――フェスの「開放感」というと、コロナの状況もありますが、将来的には会場での飲食もできるフェスイベントにしていきたいのでしょうか。

 今回は客席での飲食は禁止でしたが、会場内にキッチンカーや飲食スペースを設けて、開演前や5時間超の公演中でも飲食できるようにしました。

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――今後は飲食しながらライブを観(み)られるようにすることも選択肢に入るのでしょうか。

 可能性としては考えたいと思います。2回目の今回は、オンラインによるリアル会場が拡張されているような賑(にぎ)やかさ、体験価値を作ることを念頭に置いていました。

 今後コロナが落ち着いてきたら、現地会場では音楽コンサート以外でも楽しめる部分を拡張していきたいですね。音楽興行以外にも、それこそご飯がおいしかったとか、物販が楽しかったとか、そういう1日の体験を楽しめるイベントにしていきたいです。どうしても今はやれないことが多いのですが。

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