クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

新型エクストレイル 欠点のないクルマの意味(後編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)

» 2022年09月13日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

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 さて、エクストレイルは、今回のモデルから駆動の全てが電気モーターになった。エンジンは完全な発電用であり、タイヤに動力を伝えることはない。つまりエンジンは純粋に発電機で、駆動は電気モーター。この方式をシリーズハイブリッドという。

シリーズハイブリッドを搭載した日産の新型エクストレイル

 シリーズハイブリッドのメリットは、エンジンを低速域から高速域まで回す必要がないところにある。最も燃費効率の高い回転数に固定して、定格運転できればいい。つまり過渡性能の作り込みが必要ないのだ。

 初代ノートe-POWER以来、使い続けて来たHR12DEエンジンの設計は進歩的なもので、可変バルブタイミングを使って、吸入する新気の量を制限して、圧縮比と膨張比を変えていた。

 この話はややこしいので、少し乱暴に説明する。例えばピストンが上昇していく圧縮行程の途中まで、排気バルブを閉めないでおくと、吸い込んだ新気はピストンに追い出されて排気管に抜けていく。仮にストローク半分のところで排気弁を閉めると、そこから圧縮が始まるわけだ。その場合、圧縮できるのは排気弁を閉めて以降の残り半分の体積分だけである。エンジンの物理的な(つまり機械的な)圧縮比を例えばあらかじめ20:1にしておけば、ストローク2分の1からの圧縮ならば、実効圧縮比は10:1になる。

 なんでそんなことをするのかといえば、燃焼ガスの圧力をピストンでより長時間受け止めるためだ。従来のエンジンでは圧縮のストローク=膨張のストロークにしかならない。それだとまだまだ膨張エネルギーを余した燃焼ガスをみすみす排気バルブから捨ててしまうことになる。だから本当は、力を受け止める膨張ストロークだけ伸ばしたいのだが、それができないのなら、逆転の発想で、バルブを使って実効的な圧縮のストロークを縮めて、その分機械圧縮比を高くしてやれば済むわけだ。物理的に圧縮のストロークを縮めるのは大変なので、可変制御排気弁で実質的な有効ストロークを決めてやるのが、このバルブタイミング制御方式の可変圧縮比エンジンである。

 ところが、HR12DEを見ると、機械圧縮比は12:1しかない。最終的な実効圧縮比を11:1とか10:1くらい残してやろうとすると、可変バルブタイミングで新気を逃がしてやる余地が少ない。つまり膨張比を長く取るといっても知れているわけで、膨張エネルギーを回収しきってないところがもったいない。

 それにそもそもe-POWERでは、エンジンは発電専用であり、基本的には定格でしか運転しない。駆動用にあらゆる負荷領域で使う前提で設計されたHR12DEはかなりオーバースペックである。コハダの握りが1貫欲しいだけなのに、寿司桶をひとつ頼んでいるみたいなものだ。定格でだけ性能が出るエンジンならもっと安く単純な構造で作れる。

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