クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

新型エクストレイル 欠点のないクルマの意味(後編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2022年09月13日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

可変圧縮エンジンの搭載

 が、しかし、日産としては熱効率にこだわりたかった。これは筆者もエンジニアに聞いてみて知ったのだが、バルブタイミング制御ではより高い機械圧縮比のエンジンを作るのは難しいらしい。そこで今回は新たに、Variable Compression(VC)エンジンであるKR15DDTを設計し、搭載した。

VCエンジンの作動原理を表した動画(日産資料より)

 KR15DDTは、従来のエンジン同様、ピストンに接続されるコンロッドのビッグエンドがリンクを介して、クランクを抱える構造なのだが、そこから先はだいぶ違う。クランク軸を挟んだリンクの反対側にはもう1つ、セカンドコンロッドがオイルパン側に向けて装備され、セカンドコンロッドのスモールエンドはモーター駆動の偏心軸で位相をコントロールされる。偏心軸が回ることで、テコの原理で、クランクセンターからピストン上死点までの距離が可変になる。要するにリンクでストロークを変える仕組みである。

ピストンストロークを可変にすることで、可変圧縮比を実現したVCエンジン(写真は2016年に初めて公開したインフィニティ向けの2リットルVCターボエンジン)

 バルブ制御だけでも可変圧縮比は達成できるにもかかわらず、今回こんな複雑な仕掛けを設けてまで機械的な可変圧縮比を投入したのはなぜなのか? それに対する日産の答えは、「圧縮比の高いところが使えるからです」ということだった。実際KR15DDTは作動中のかなりの領域で15:1で作動しているという。そしてこの領域に熱効率のおいしいところがあるのだそうだ。全負荷運転的なパワーモードでは8:1に、低負荷のエコ走行では15:1になる。普通の人が普通の運転をしている限り、最も常用するところで高効率が期待できる。

 もうひとつ、エンジンルームの場所取りでモーターやインバーターや減速機に追いやられた結果、エンジンの選択肢が3気筒しかなかった。しかしながらエクストレイルを、例えば欧州で時速150キロで走らせたいとすれば、どうしても発電機のキャパシティは110kWを確保したい。そうすると無過給の3気筒では能力的に厳しい。燃焼の効率を考えると、1気筒当たりの排気量は450ccから500ccといわれている。つまりは3気筒で効率を求めれば最大排気量は1.5リッターということになり、KR15DDTはまさにその最適排気量の3気筒を狙って1.5リッターになっている。

 だから過給をしたいのだが、過給をすればノッキングの対策が必要になるし、圧縮比が上げられない。機械式可変圧縮比ならそれらの問題を解決しつつ、極端にパワーを必要としない運転時には、熱効率のおいしい15:1の圧縮比を使うことができる。かつてのターボエンジンがノッキング対策で点火をリタードさせていたのと同様に、ノックの兆候が出たら圧縮比を下げればいい。圧縮比を下げれば出力は落ちるが、リタードと違って熱効率は落ちない。

 それらの理由に対しては、そうですかと言うしかないが、肝心の燃費がWLTCで19.7キロと言われると、少し物足りない。もちろん車高が高く空気抵抗的に厳しいSUVで、しかもバッテリーも搭載しており、車両重量は軽いモデルでも1740キロあるので、まあ仕方がないと言えば仕方がないのだが、夢が詰まった可変圧縮比エンジンに期待するベンチマークはもう少し高い。

 正直なところ、発電専用エンジンはもっとシンプルでいいと思うのだが、日産が内燃機関にもちゃんと情熱を傾けて、熱効率40%を達成して見せたところには敬意を払いたい。

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