クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

新型エクストレイル 欠点のないクルマの意味(後編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2022年09月13日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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どうしても「欲しい」という気持ち

 さて、総評である。エクストレイルはよく出来たクルマだと思う。全体のバランスを見て、瑕疵(かし)といえるような欠点はほとんどない。例えば社用車にエクストレイルがあったら、好んで乗ると思うし、レンタカーで出て来たら当たりだと思うだろう。そして、誰かに購入相談をされたら、素直に背中を押すと思われる。

 しかしながら、「欲しい」という気持ちを射貫くようなサムシングエルスがあるかというと、個人的にはちょっと戸惑う。確かにレーダーチャートにしたとき、面積が大きく、円に近い。とても優等生だと思う。

 そういう話をエンジニアにしたら、ちょっとショックだと言う。まあそうだろう。「どこが足りないんですか?」という彼の問いに筆者は答えた。「どこにも不足はないです。例えばテスラのモデル3と各項目を比べた時、エクストレイルが具体的に負けている項目はあんまりないと思います。レーダーチャートでは、むしろ優勢でしょう。乗り心地もハンドリングもシートだってエクストレイルの方が良い。だけど、あばたもえくぼ式に欲しくてしょうがなくなる何かをテスラは持っていると思いませんか?」

 まあ欲しい気持ちは人それぞれ、もしエクストレイルが欲しいという人がいたなら、とても幸せな人だ。欠点の無い良いクルマに惚れられたのだから。男運、女運ならぬクルマ運がいい人である。欠点の多い駄目グルマに惚れ込んで、無駄な修理に湯水のごとく浪費するより実りは多い。ただし、ダメな相手にのめり込む陶酔感はそれはそれでプライスレスなのだ。

 さて、今の日産にとって、レーダーチャートが大きく丸いエクストレイルは正解だと思う。事業構造改革計画を確実に成功させなくてはならない局面で、破天荒な魅力のクルマを作ってみることはお勧めできない。バランスの良い正しいクルマを作った。それはとても理にかなっていると思う。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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