このように法的にも倫理的にも問題を抱えたクリアビューAIの顔認識システムだが、CEOを務めるトン=タット氏は、今回の戦争の開始直後の3月に、知り合いのバイデン政権の関係者を通じてウクライナ政府に無償で提供することを決心し、同アプリのウクライナ語版を作成して渡したのだ。
ではウクライナ政府はどのようにこの顔認識サービスを活用しているのか。例えば、ウクライナ領内で戦闘中に死亡して遺棄されたロシア軍兵士がいたとする。その兵士の遺体の顔をスマホで撮影し、アプリを通じた「顔認識」で人物を特定するのだ。
同社のDBはロシア最大のSNSサービスで「ロシア版フェイスブック」と呼ばれる「VKontakte」(VK、フコンタクテ)を基に構築されているため、今度はその死亡した兵士とSNS上でつながっている両親や友人と思しき人物に対して、VKを通じて「ウクライナの〇〇(地名)に遺体がありますので、戦争が終わったら引き取りに来てください」と連絡するのだ。
興味深いのはその反応だ。米CNNの5月14日付けの報道によれば、80%の返答は当然ながら敵対的なもので「そこで待っていろ、今すぐ復讐しに行く」とのことだが、残りの20%は「真実を教えてくれてありがとう」というものや「戦争が終わったら引き取りに行きます」など感謝されるパターンもあるという。
CNNはまた、国境でウクライナ側に入ってくるロシアの工作員を特定したり、監視カメラなどに映った映像から戦争犯罪を犯したロシア兵を特定する(ベラルーシの郵便局で母国に「略奪品」を送ろうとしていた兵士はその一例)などにも使われていると報じている。
ロシア側勢力だけではく、逆に避難民となり、隣国ポーランド国境などに来たウクライナ人に対しても活用されており、免許などの身分証明書を持っていなくてもこのアプリで身分照会が可能となっているという。
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