東急バスのEV自動運転バス 当面の目標は「路線バスの先」にある杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/8 ページ)

» 2022年09月18日 07時17分 公開
[杉山淳一ITmedia]

既存路線バスと共存、小型バスで毛細血管のような路線網をつくる

 東急グルーブはもともと、田園都市開発という不動産業から始まった。東京近郊に広大な土地を取得し、都心から鉄道を通して価値を上げて販売する。これは阪急グループの創始者、小林一三が発明したビジネスモデルで、田園都市開発も一時は小林が社長だった。しかし多忙のため五島慶太に後任を託した。

 田園都市開発は多摩川田園調布開発に成功し、戦後はスケールの大きな多摩田園都市に着手する。この壮大な都市開発の交通計画で幹となる事業が田園都市線。田園都市線に集客し枝のように住民の動線を確保する存在が路線バスである。鉄道とバスの連携が土地の価値を上げてきた。

 そういう経緯があるから、東急が自動運転バスを導入するなら、現在の路線バスを自動化するだろうと思っていた。まずはマイクロバスで実験を始めて、ゴールは路線バスだろうと。何しろ少子高齢化で人材不足だ。バスの運転手が足りない。自動化は急務のはず。

 しかし、今回の実験で聞いたところ、まずはこの小型バスで自動運転を成功させるという。大型路線バスの導入はその次、かなり遠い未来になりそうだとのこと。

 「いままで私たちは、鉄道、バス、そしてバス停から自宅までの徒歩がラストワンマイルだと考えていました。しかし、高齢化社会ではもっとバスを細かく走らせる必要があると考えています。私たちの第一目標は、ラストワンマイルを担う新しいバスです。だから小さくていい、小さいなら電気バスでいい」(東急バス担当者)

 この辺りの路線バスは300〜400メートルごとにバス停を設置している。バス停から150メートルの円内の人々がバスに乗れることになる。高齢化などの事情で、その150メートルもツライ人が出てくるだろう。特に多摩田園都市は坂が多く、高齢者に住みにくい町になりつつある。

 「『ウチの近くにもバス停がほしい、せめてウチの前の通りにもバスを通してほしい』という要望をいただいています。しかし、そういったバス停に対して、現在の路線バスはオーバースペックになります。小さなバスなら、もっと細い道にも入れますから」(東急バス担当者)

 なるほど、そこで小型バスを導入し、枝の先の葉、その葉脈のようなバスルートを設定しようというわけだ。得心した。確かにわが家はバス停とバス停の間にある。どちらも坂を下ったところ。つまり帰りは上り坂。ここにバス停かあったら……そんな住民はたくさんいそうだ。

 「この坂をもっと下って左折すると東急ストアがあります。でも、そばにバス停がありません。あれば便利だろうな、という思いは、住民のみなさんもバス事業者も同じなんですよ」(東急バス担当者)

 確かに「既存の路線バスを置き換える」という概念を離れ「駅前から発着しなくていい」と考えると、小型自動運転バスの用途も広がる。この地域は送迎バスも多い。病院、幼稚園や私立学校、スイミングスクール、自動車学校、老人ホームの規模なら、乗客6人で頻度を上げれば間に合いそうだ。

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