しかし、日本ではそういうことを少しでも口走ると、「中小企業淘汰論者だ!」と壮絶なバッシングにあう。この国では「弱者」とは「中小企業経営者」を指す。年収200万円に満たない最低賃金スレスレしか払わないブラック経営者でも、労働者を失業させていないのは立派ということで、とにかく国や自治体は力で保護すべきだという考え方が「常識」として定着している。だから、日本では労働者がどれだけ貧困に苦しんでいても、最低賃金を大幅に引き上げようという話にならない。
つまり、賃上げをして失業や倒産が増えるという「格差」が広がるくらいだったら、低賃金に歯を食いしばりながらみんなが「平等」に貧しくなったほうがいい、という世界的にもかなりユニークな経済政策を半世紀にわたって進めてきた結果が「安いニッポン」なのだ。
実はこの構造的な問題は「国葬」にも当てはまる。参列客の「格差」が広がるくらいだったら、ちょっとでも関係のあった人は「平等」に扱ってすべて招待をしてしまえ。それで式典が長時間に及んで警備コストが膨れ上がっても、参列客が苦痛に感じようとも知ったことか――。そんな独特の考え方をつきつめた結果が、あの「安っぽい国葬」なのだ。
実は日本の国葬が、英国の国葬よりも高額な費用になったのは、セレモニーの内容うんぬんではなく、「規模」の肥大化を止められなかったことが大きい。
エリザベス女王の国葬は500人以上の国家元首や高官が招待され、2000人が参列したという。一方、安倍元首相の国葬の参列者は4183人でなんと2倍以上となっている。しかも、時間が圧倒的に長いのだ。
英国の国葬は午前10時44分、ウェストミンスター宮殿をエリザベス女王の棺が出発して、沿道には多くの国民が見送った。そして、午前11時に国葬がスタート。カンタベリー大司教の説教の後、世界各国の王族や首脳、要人たちが黙祷を捧げて、国歌斉唱をして正午には終了。のべ1時間半にも満たない。
しかし、日本の国葬はこんなに短くない。中継内で「あくびをかみ殺す外国人ゲスト」がいたと指摘されたように、日本企業名物「長い会議」を彷彿させる「長い葬儀」だった。
安倍元首相の遺骨が自宅から出発したのは午後1時40分。そして午後2時から国葬がスタート。国家演奏や黙祷(もくとう)が行われて、安倍元首相の生前の映像なども流され、岸田首相や友人代表の菅義偉氏が弔辞を送った後、参列客が順番に祭壇に花を添えてお別れをする。
当初の予定は3時間だったが、大幅に予定を超えて、終了したのは午後6時過ぎだ。ここまでのべ4時間20分と、エリザベス女王の国葬の3倍弱だ。
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