16億円もかけたのに、なぜ「国葬」がチープに感じたのか 「低賃金」ならではの理由スピン経済の歩き方(6/7 ページ)

» 2022年10月04日 10時40分 公開
[窪田順生ITmedia]

会場や演出が安っぽくなるのは当然

 先ほども申し上げたように、いつまでたっても日本の賃金が上がらないのは、諸外国のように、最低賃金の引き上げをしっかり進めてこなかった結果だ。

 「じゃあ進めろよ」と思うかもしれないが、自民党政権にはそれができない「オトナの事情」がある。最低賃金の引き上げに反対している、中小企業経営者の業界団体「日本商工会議所」や全国の商工会は、自民党の支持団体のひとつだ。

 旧統一教会問題でも分かるように、政治家というのは基本的に自分の選挙を応援してくれる人たちに逆らえない。自民党は政治力学的に「賃上げを進められない政党」なのだ。だが、それを言ってしまうとミもフタもない。

 そこで政府はどうするのかというと、「賃上げを後押しする」という名目で、補助金や税制の優遇など、中小企業経営者に手厚い保護をする。コロナ禍で飲食店などにばらまかれた協力金などが、現場で働くバイトやパートにほとんど還元されなかったことからも分かるように基本的に、経営者へのバラマキは、運転資金や経営者のポケットマネーに消える。

平均給与の推移(出典:厚生労働省)

 だが、政府自民党的には問題ない。むしろ、それでいい。低賃金のアルバイトやパートは組織力がないので、選挙の時は「浮動票」扱いでほとんど役に立たないが、中小企業経営者は先ほど紹介した業界団体もあるので、恩を売れば頼もしい組織票となるからだ。

 つまり、「労働者の賃金を上げていく」という本来の目的にかこつけて、「中小企業経営者保護で選挙支持獲得」という下心を優先させてきたことも、「安いニッポン」につながっているのだ。

 「安っぽい国葬」も構造はよく似ている。本来は「暴力に倒れた安倍元首相の死を悼む」という目的なので、カネを注ぎ込むべきは国民にそれを伝えるべき会場や演出だ。しかし、政府は早々に故人への敬意そっちのけで、「弔問外交」というメリットを強調してきた。

 「弔問外交で支持率V字回復」という下心を優先させれば当然、国葬会場の備品や演出は安っぽくなる。海外のVIPを招いて会談することが何よりも重要なので、葬儀自体はあくまで「きっかけ」に過ぎず、最低限の体裁が整えばいいからだ。

 ちなみに、こういう目的を見失って、安っぽくなるというのは、企業のPRイベントなどでもよくある。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.