16億円もかけたのに、なぜ「国葬」がチープに感じたのか 「低賃金」ならではの理由スピン経済の歩き方(7/7 ページ)

» 2022年10月04日 10時40分 公開
[窪田順生ITmedia]
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「安いニッポン」の病理

 社会に何を訴求したいのか、広めたいのかという目的を見失って、企業としての見栄や経営者の自己満足的な要素を重視していくと「これってなんのイベントだっけ?」というくらいチープな内容になって、大スベりすることが多い。

 そして今回の「安っぽい国葬」と「安いニッポン」には、もうひとつ大きな共通点がある。それは「精神論に流されて構造的な問題がウヤムヤにされる」ことだ。

 日本は戦後、吉田茂元首相以降、国葬は行われなかった。それ以降の首相が「小物」だったからではなく、「無宗教のお別れ会」に税金を投入しても国民の賛同を得られなかったからだ。だから、法制化も見送られた。

 しかし、今回、安倍元首相が非業の死を遂げたことで、そういう構造的な話は無視されて、「安倍元首相が国葬に相応しくないなんて言うのは日本人ではない」という精神論で押し切られた。立派な人だから法律や議論を無視して国葬にしろ、という発想は、中国、北朝鮮、ロシアなどの国と同じだ。

 「安いニッポン」もまったく同じで、日本企業の99.7%を占めて、労働者の7割が働く中小企業を活性化していくためにも、最低賃金を引き上げていくべきだというデータに基づいた構造的な話をしても、精神論でかき消されてきた。

 最低賃金を引き上げたら何百年も続いた老舗が潰れたとか、一部の悲劇にフォーカスを当てて「弱者切り捨て」と賃上げに猛反対されてしまうのだ。

 データや事実を軽視して、無茶な精神論を押し付ける社会というのは、既に衰退が始まっていることを、われわれは先の悲惨な戦争で思い知ったはずだ。「安いニッポン」はその象徴だ。

 「菅さんの弔辞で涙腺崩壊」なんて身内ネタで満足されている国葬は、「安いニッポン」の病理がいよいよ国家中枢まで蝕(むしば)んできたということなのかもしれない。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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