会社は、従業員を使用して利益を上げている以上、従業員による事業活動の危険を会社も負担するのが公平であるという「報償責任の原則」という考え方があります。本件ではノートPCに飲み物をこぼした行為について会社の過失があるわけではありませんが、この報償責任の原則に従えば、発生した損害の全てを従業員に負担させることはできないということになります。
具体的に請求できる金額は個々の事案により異なりますが、判例では「使用者は、その事業の性格・規模・施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができる(茨城石炭商事事件 最高裁小法廷、昭和51年7月8日判決)」としています。なお、この事件では、従業員に請求できる範囲は損害額の4分の1を限度とすべきとされています。
一方で、損害の全額を請求できないとしても、就業規則に損害賠償規定を設けておくことは、従業員のミスの防止や損害発生を予防する効果が期待できます。この場合の注意点としては、あらかじめ損害賠償額を決めて定めることはできません。
例えば「一定期日前に退職したら賠償金10万円を支払う」や「会社備品を壊したら一律5万円を支払う」というような規定は、労働基準法16条に定める賠償予定の禁止に違反することになります。
なお、労働基準法24条1項では賃金の全額払いが定められており、原則として社会保険料や税金など、法律で控除することが認められているもの以外を控除することは法律に違反することになります。
従って、請求金額を支払ってもらう際において、従業員の給与から一方的に控除することはできません。ただし、損害賠償について従業員の自由意志のもとで合意を得れば、給与から控除することも可能となります。
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