クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

「水素エンジン」は本当に実用化するのか トヨタの本気が周りを動かし始めた高根英幸 「クルマのミライ」(3/4 ページ)

» 2022年10月05日 08時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

水素は「蓄電池の代わり」という考え方もできる

 再生可能エネルギーで発電した電気は、蓄電池にためて安定供給することもできるが、蓄電池も劣化して内部抵抗が増えるなど劣化が避けられない。そこで水を電気分解して水素としてためておくことも考えられている。

 燃料電池を使えば再び電気エネルギーとして使えるし、タービンエンジンで燃焼させての発電(さらに熱エネルギーを回収して蒸気タービンを使ったコンバインドサイクルも使える)もできる。

 ただそうなるとそのまま保管しておくのが難しい、という水素ならではの問題がある。軽くて小さい水素原子は、金属の分子間も通り抜けてしまうから、閉じ込めておくのが難しい。

 これも専用の合金やコーティング技術の開発により、かなり解決されつつある。そうなると残る問題は運搬と貯蔵の方法だ。

 最も一般的なのは圧縮した状態で運ぶもので、450気圧まで圧縮してタンクに詰め込まれる。FCVへの充填(じゅうてん)はさらに850気圧まで圧縮して行われる。これにより体積は800分の1程度となり、航続距離を伸ばすことが可能となったのだ。

 それでもマイナス254度に冷却して液化すれば圧力は低くなる(それでも200気圧ほどはあるがトヨタMIRAIの700気圧よりはマシだ)。トヨタも液体水素を利用する方法を研究しているようだ。

 液体水素をオーストラリアから保冷したまま運ぶ技術はすでに開発され、2週間は維持できることを証明済みだ。気候変動により夏は猛暑が続くこともあるが、真空断熱技術と冷凍技術を組み合わせれば、さらに低電力で液体水素を保管できそうだ。

 水素吸蔵合金という手もある。クルマには重量増が大きく不向きだが、自らの体積よりも多くの水素をため込める合金は、水素ステーションなどには向いている。

 また有機溶剤であるトルエンに水素を溶かして運搬、保管する手もある。アンモニアも水素が多くカーボンフリーな素材であるが、アンモニアから水素を取り出す方法より、直接アンモニアを燃料として使う方法も開発されているので、今後はそちらのほうも実用化が進みそうだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.