実は4年ほど前まで、日本国内で水素利用のマーケットは非常に閉鎖的な印象だった。というのもトヨタはMIRAIを発売し、燃料電池バスを開発しても、それはトヨタグループ内だけの利用で、燃料電池スタックや高圧タンクといった燃料電池や水素を使用するための機器や部品は販売されていなかったからだ。
国内で他の企業が燃料電池などで水素を利用しようと思っても、そもそも設備が手に入らなかった。イタリアや韓国でつくられている製品を輸入販売する動きもあったが、そもそも水素自体がなかなか入手しにくいので、もっぱら工場で副生水素を利用するための需要しかなかった。
しかし現行のMIRAI発売後は、燃料電池スタックの販売も開始しており、高効率なトヨタの燃料電池を利用できる環境となっている。
先日のFC EXPOでも、高圧タンクやそれを製作する工業用ロボットなどが展示されており、新たな水素ビジネスの広がりを感じさせるものとなっていた。
クルマとして残る課題は、交通事故などのリスクをどう解決するか、ということだろう。
つい先日もガスボンベを搭載したトラックが、急ブレーキでボンベを落下させて爆発、大規模な火災(といっても延焼などはなく、通行止めになったのが最大の被害のようだ)が起こってしまった。
MIRAIでは十分な安全対策をしているとはいえ、FCVや水素エンジン車が街をたくさん走るようになれば、交通事故も増え、中にはタンクに損傷を与えるような事故も発生するかもしれない。衝突の予防技術の進化も、水素利用のモビリティ普及には不可欠な要素と言えそうだ。
トヨタが本気で水素エンジンを普及させようというのであれば、水素社会は10年先どころか7〜8年先には、いや5年先にも実現できるかもしれない。
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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