批判にめげず 「イカキング」を大化けさせた製作者の意地とプライドリアリティを徹底追求(1/4 ページ)

» 2022年10月08日 07時30分 公開
[濱川太一ITmedia]

 世界を席巻した韓国ドラマ「イカゲーム」に、記録的ヒットが続くイカが主人公の任天堂の新作「スプラトゥーン3」。人はとかく、イカに引かれる生き物なのか。石川県能登町の巨大モニュメント「イカキング」が注目の的となっている。完成当初は「税金のムダ遣い」などと批判されたが、町は建設費を大きく上回る6億円の経済効果があったと発表し、驚きが広がった。前評判を覆す“大逆転劇”はなぜ起きたのか。関係者に話を聞くと「イカの町」の再興を信じて進み続けた、町職員や地元企業の執念が見えてきた。

「イカキング」の“大逆転劇”はなぜ起こったのか?(能登町提供)

 「批判する人にもしっかり説明すれば、必ず理解してもらえると思った」

 こう話すのは、能登町ふるさと振興課の下谷内(しもやち)哲次・課長補佐。批判が高まる中でも「ぶれずに進めてきた」と振り返る。

 能登半島の先端近くに位置し、約1万5600人が暮らす能登町。北海道の函館、青森県の八戸と並び、スルメイカの日本3大漁港として知られる。

 イカキングは全長13メートル、高さ4メートルで、繊維強化プラスチック(FRP)でできた巨大モニュメントだ。2020年10月から製作を開始し、21年4月に完成。名称は町が愛称を募集し、「いかまる」や「つくも大王」など、集まった909件の中から選ばれた。

20年6月にオープンした「イカの駅つくモール」。この敷地内にイカキングは設置された(能登町提供)

 町には20年6月、「イカのまち」をアピールするため、レストランや物産販売コーナーを備えた観光交流施設「イカの駅つくモール」がオープン。しかしその後、コロナ禍で観光客は減少し、イカ漁も大きな打撃を受けた。

 窮状を救うべく、町の知名度アップと人を呼び込む目玉として計画したのが、国の新型コロナ対応の臨時交付金(コロナ交付金)を活用したイカの巨大モニュメントの製作だった。

「本物のイカ」眺めリアリティ追求

 「食うか喰われるか」――。町はそんなコンセプトを打ち立て、イカに食べられる疑似体験ができるモニュメントの設置を目指し、製作者を選ぶための公募型プロポーザルを20年9月に実施した。地元企業など3社が手を挙げ、審査の結果、翌10月にヨシダ宣伝(石川県金沢市)を選出した。

 ヨシダ宣伝は1919年創業のイベント企画会社。商業施設などのシンボル看板のデザインや製作、博物館や美術館といった文化空間の創造事業など、幅広く手掛けている。

モニュメント製作にあたりヨシダ宣伝が作成した図面(ヨシダ宣伝提供)

 イカキングの製作にあたり、どのようにしてアイデアを練ったのか。批判が起きたときは、どんな思いだったのか。製作に携わった社員でデザイナーの高橋真紀さんと、企画営業課長の近村亮佑さんに話を聞いた。

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