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月給35万円のはずが、17万円に……!? 繰り返される「求人詐欺」の真相働き方の「今」を知る(4/6 ページ)

» 2022年10月18日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

求人詐欺がなくならない3つの理由

 それどころか、厚生労働省の2021年の調査によると、過去3年間に求人サイトなどを利用してトラブルがあった人の割合は66.8%で、そのうち最多の被害項目が「求人内容と実際の雇用条件が違う」(26.4%)だった。

 なぜ、求人詐欺は止まないのだろうか。理由は大きく3つある。

求人詐欺がなくならない3つの理由(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

(1)求人内容が虚偽であることの証明が難しい

 1つは、「求人内容が虚偽であることの証明が難しい」ことだ。

 現在の法律では「虚偽の条件を提示して」と、求人内容が虚偽であることが違反の前提となっているのだが、それが虚偽だと証明するのは求職者側の役割なのだ。

 従って、求人募集時の広告においてどのように表記されていたかデータを保存し、面接時の企業側の説明内容も録音したうえで齟齬(そご)を指摘し、労基署にも相談する──といった「証拠確保」を地道にしなければならない。

 しかし通常、求職者側は自分が求人詐欺に遭う可能性など想定してはいないため、応募当時の求人広告データなど保持しているわけもなく、気づいた頃には広告内容も更新されていたりして、虚偽であることを証明できないケースも多い。

 また企業側にも抜け道がある。「実は、求人広告を出したとき(募集開始時)と今(採用内定時)では状況が変わったので給与水準も変化した。決して虚偽ではない」と、いくらでも言い訳ができてしまうのだ。

 仮に裁判になったとしても、実際の労働契約の内容は、入社時に締結する「労働契約書」や「雇用契約書」の内容に基づくと判断されるケースが多い。求職者は企業側の口頭での説明を信じ、これらの書面にあっさりサインしてしまうことが通常であるから、後から「聞いていた内容と違う!」と主張したところで、「でもあなた自身が納得してサインしているではないか」と言われてしまうと、それ以上の対処ができなくなってしまうわけだ。

(2)罰則が緩く、抑止力になっていない

 2つ目は、「違反に対する罰則が緩く、抑止力になっていない」ことだ。これはブラック企業における労基法違反全般に言えることだが、一人の求職者の人生を左右してしまうかもしれない事案に対して、わずか罰金30万円というのはあまりに軽い。これでは逆に、「30万円払えば違法行為し放題」とのメッセージを発しているようなものである。

 労働基準関係法令違反で起訴され、有罪となる割合も実に低いものだ。令和元年度(2019年度)の数字を例にとると、まず全国の労働局や労働基準監督署に寄せられた「総合労働相談」の件数は「118万8340件」であった。労働基準監督署による調査がなされたのは「3万2981事業場」で、そのうち「1万5593事業場」でなんらかの労働基準関係法令違反が見つかり、監督指導が実施された。そこから書類送検に至ったのは「821件」で、起訴されたのは「333件」、裁判の結果、そのうちほぼ全て「332件」が罰金刑となり、懲役にまで至ったのはわずか「1件」のみ、という結果であった。

 すなわち、現行法制における罰則は、意図的に違法行為を繰り返す企業側にとっては痛くも痒くもなく、なんら恐れるものとなっていないという構図がみてとれる。

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