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月給35万円のはずが、17万円に……!? 繰り返される「求人詐欺」の真相働き方の「今」を知る(5/6 ページ)

» 2022年10月18日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

(3)被害を訴え出るハードルが高い

 3つ目は、(1)の「証明が困難」とも関連するが、「被害を訴え出るハードルが高い」ことだ。

求人詐欺がなくならない3つの理由

 仮に入社前に求人詐欺が判明するとしても、具体的な労働条件が示されるのは、一般的に雇用契約書にサインする段階に至ってからだ。

 それは通常内定後であるから、他に受けていた会社があったとしても、すでに断りを入れてしまっているタイミングであるケースが多い。その時点で「虚偽だ」と気づいても、いちど辞退した他社の内定を再度復活させてもらうなど現実的ではないし、また最初から転職活動をやり直すのもあまりにエネルギーと時間がかかりすぎる。であれば、納得いかない条件であっても目先の生活のために受け入れざるを得なくなることがほとんどだろう。

 今般のマダムシンコの事案のように、虚偽だったことが入社後ある程度の時間がたってから判明するケースもある。そこから会社側に権利を主張するとしても、相手は堂々と虚偽広告を出してくるような会社だ。まともな対応がなされる可能性は低く、逆に「会社に盾突く要注意社員」として目の敵にされ、ハラスメント被害や報復行為に遭ってしまうかもしれない。

「会社に盾突く要注意社員」とされてしまう恐れから申し出にくい(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 裁判など法的対処を執るという選択肢もあるが、相応のお金と時間とエネルギーを要するうえ、取り返せるお金よりも裁判費用と弁護士費用のほうが高くつくことが多く、よほど会社に恨みがあるケース以外では現実的ではない。

 そもそも、求人詐欺にまつわる民事裁判自体がごく少数であり、確立された最高裁判例も存在しないのが現状なのだ。今般のケースは法的対処の中でも、比較的短期間で結果が出る「労働審判」を申し立てたものだが、それでさえレアケース。どのような審判がなされるのか、筆者も強い関心をもって見守っているところである。

 なお、高裁判例は存在する。著名なものは「千代田工業事件(大阪高判平成2年3月8日)」。求人票には「常用」(=無期雇用正社員)と書いてあったのに、試用期間終了後に「有期」の労働契約書を提示され、サインしてしまった結果、入社1年後に契約終了を言い渡されてしまった事件だ。判決では「求人票に記載された労働条件が雇用契約の内容になる」と判断された。

 悪意ある企業にとって求人詐欺とは、例えるなら自動車運転における「スピード違反」のようなものだ。「違反だとは分かっているけど、他も皆やってるし、見つかったら運が悪かったと諦めて罰金を払う」程度の認識であり、まさか自分たちがそれで捕まり罰せられることなどないとタカをくくっているのだろう。

 労働問題に詳しい、アクト法律事務所の安田隆彦弁護士は「求人詐欺についてはもっと厳しい罰則にするべきですし、労働基準監督署も取り締まりを厳しく持っていくべきです」と懸念を話す。

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