社内の“違法なヒミツ”を知ってしまったら──内部通報者を守る「公益通報者保護法」、改正でどう変わった?2022年6月施行(6/6 ページ)

» 2022年10月26日 06時00分 公開
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 さらにガイドラインでは、通報者を保護する体制の整備として、以下の措置をとらなければならないとしています。

(1)不利益な取扱いの防止

 通報者が不利益な取扱いを受けない措置を取るとともに、不利益な取扱いを受けていないかを把握できる措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置を取る必要があります。

 不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置として、通報者に対して能動的に確認することが考えられます。例えば、不利益な取扱いを受けた際には担当部署に連絡するよう、通報者にあらかじめ伝えておくことなどが考えられます。

 また、通報者に不利益な取扱いが行われたことが発覚した場合には、不利益な取扱いを行った者に対して、懲戒処分その他適切な措置を取る必要があります。

(2)情報漏洩(えい)の防止

 通報内容が通報対応業務と無関係な者に漏洩しないための措置を取る必要があります。また、漏洩してしまった場合には、適切な救済・回復の措置をとらなければなりません。具体的な方法としては、通報事案に関する記録・資料を閲覧・共有することが可能な者を必要最小限の範囲に限定し、公益通報に関する記録の保管方法やアクセス権限についても規定で明確にすることなどが考えられます。

 また、匿名の通報については、通報者を特定しなければ満足な調査が実施できないなどの場合を除いて、通報者の探索を行わない措置を取ることが求められます。具体的には、通報者の探索を行った場合、処分その他の措置の対象となることを定め、その旨を教育・周知することが考えられます。

 万一通報内容を漏洩したり、通報者の探索が行なわれた場合には、これらの行為を行なった者に対して、懲戒処分その他適切な措置を取る必要があります。

通報体制について社員への周知も行う

 ガイドラインでは、通報体制を実効的に機能させるための措置についても定めています。

 まず通報体制の内容などについて教育・周知を行う必要があるということです。また、内部通報の対応に当たる者に対しては、通報者を探索しないことなどについて、特に十分に教育を行う必要があります。教育・周知に当たっては、単に規定の内容を形式的に説明するだけではなく、主体的かつ継続的に制度の利用を呼びかけるなど、内部通報の重要性を十分に認識させることが求められるとしています。

 また、従業員から寄せられる通報体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応することも求められます。通報窓口の利用を企業グループ全体の従業員などに認めている場合には、利用者全てに対して教育・周知を行うことが望ましいといえます。

 内部通報の調査の結果、是正に必要な措置をとった場合や通報対象事実が存在しないと判明した場合、プライバシー等に配慮した上で、通報者に対して、速やかにその結果を通知する必要があります。また、全社的な再発防止策をとる必要がある場合には、従業員全員に対応状況の概要を伝えるなど、状況に応じたさまざまな措置を取ることが必要です。

 さらにガイドラインでは、内部通報の対応に関する記録を作成し、適切な期間保管することも求めています。記録の保管期間については、個々の事業者が評価点検や個別案件処理の必要性などを検討した上で、適切な期間を定めることになります。

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 以上、「改正公益通報者保護法」の概要について解説してきました。企業としては、ガイドラインが求める事項をもとに内部規定を作成し、規定の定めに従って運用することが求められます。内部通報の受付から調査・是正措置の実施までを適切に行うため、企業幹部を責任者とし、その役割を規定により明文化することが望ましいということです。

 ここでご紹介したガイドラインの内容に従い、適切な通報体制を確立し、健全な企業経営を遂行して欲しいと考えています。

横張清威(よこはり きよたけ)

弁護士・公認会計士。平成13年司法試験合格。平成24年公認会計士試験合格。令和3年弁護士法人トライデント共同設立。M&A・会社法・金融商品取引法・労働問題を専門とし、多数の上場企業・ベンチャー企業に法務・財務に関するサービスを提供している。著書に「社外役員の実践マニュアル」(中央経済社)などがある。【近況】最近登山を始めました。最初は何でこんな苦しいことをしているのかと後悔していましたが、最近ではいろいろなイベントが起きるプチ冒険のように楽しめるようになり、毎週土曜日に欠かさず登っています。

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