月面でのモバイル通信も! KDDI総研が挑む「6G時代」の夢広がるプロジェクト房野麻子の「モバイルチェック」(3/5 ページ)

» 2022年10月30日 08時00分 公開
[房野麻子ITmedia]

ミリ波より高い「テラヘルツ波」の活用

 ふじみ野市にある研究所施設には、地下に電波無響室も備えている。外から電波が入らず、部屋で発生させた電波も外に出ない。室内の壁は電波が響かないようになっており、普段はアンテナの試験などを行っている。

KDDI総合研究所の地下にある電波無響室。室内の壁一面に電波を吸収するトゲトゲしたスポンジ状の電波吸収体が貼られている

 イベントでは、テラヘルツ波の伝送実験を見ることができた。Beyond 5G/6G時代には、フィジカル空間の情報をサイバー空間に伝送するために、送信時の大容量化が必須だ。アンテナを増やすMINOで大容量化することはできるが、端末はサイズ的にアンテナ数を増やせない。そこで、身の回りのメガネやヘッドフォン、スマートウォッチなどをアンテナにして数を増やし、容量を増やす「仮想化端末」というコンセプトを掲げている。デバイスと端末の間をテラヘルツ波でつなぎ、そこからミリ波に変換して基地局に届けることで、Beyond 5G/6Gで求められる超高速・大容量通信の実現を目指している。

白い四角の中央の丸い部分がアンテナ。金色の箱に取り付けられたアンテナとの間の距離は15センチメートル程度だが、仮想化端末コンセプトを実現するためには1メートル程度飛ばす必要がある。実験ではテラヘルツ波(290GHz)の4.8GHz幅を使って伝送しており、通信速度は現状では90Gbpsを目指している。Beyond 5Gでは100Gbps超の通信速度を目標としており、最終的にはそこを目指す。
しっかり通信ができていることを示すグラフ。非常に高い周波数で電波が回り込まないため、アンテナ間に手を差し入れると通信が途絶える。現在はアンテナが向き合っている状態での伝送だが、今後はアンテナ位置が動いたときでも通信できるように開発を行っていくという。

 ミリ波よりもさらに高い周波数のテラヘルツ波は非常に扱いが難しく、現状、基地局と端末間の通信で使うのは困難とされる。そこで検討しているのが、端末と周辺デバイス間の通信に活用する方法だ。

 特に上り通信の場合、携帯電話の端末1台ではアンテナの数も電力も限られる。周波数帯域を広げても限界がある。複数のデバイスがあれば、環境のいいデバイスのアンテナ、電力も使って送れるという考え方だ。

 本当に実現できるのかという疑問はあり、KDDIの担当者も「少々SFっぽい。大学の先生から無理じゃないかと言われる」と苦笑していた一方で、「それぐらいしないと面白くない。夢がない」とも語っていた。

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