クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

クルマの「燃料」はどうすればいいのか 脱炭素の未来池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/6 ページ)

» 2022年10月31日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 脱炭素が重要であるという話はもはや誰もが知っているだろうが、その方法論となると諸説飛び交っており、なかなか一筋縄ではいきそうもない。結論から言えば、どれかひとつの方法でやろうとしてもそれはなかなか難しい。

 諸説ある中で、おそらく現在最もポピュラーなのは、再生可能エネルギーとBEV(バッテリー電気自動車)の組み合わせである。もちろんそれはそれで重要なのだが、今すぐに世界の全てのクルマを全部BEVにしようとしてもそうそううまくいくわけではない。バッテリー原材料の調達を見ればそれは明らかだ。

 現在、車載用バッテリーのグローバル生産量は200〜300GWh(ギガワットアワー)。今後、どんどん生産拡大できるかどうかはかなり疑わしい。なぜなら原材料となるレアアースの採掘は、増産レスポンスが極めて悪いからだ。

 一般に鉱山開発は10年から15年の時間がかかるとされている。つまり直近で数字が伸びたとしても、それは開発済みの鉱山から得られる原材料を最大効率で利用した話であって、ここから先のバッテリー増産は採掘量の増加待ちでキャップがかけられてしまう。

 さて、全世界の新車生産を全てBEVに置き換えるのだとしたらどのくらいのバッテリーが必要なのだろうか?  コロナ前のグローバルな新車販売台数は約1億台。コロナショックと世界的な部品不足によって、現在は8000万台を切るあたりだが、本来の需要で見ればコロナ前を基準にすべきだろう。

電気自動車「日産リーフ」(出典:日産)
テスラの「Model S」(出典:テスラ)

  だとすれば、その1億台に1台当たりのバッテリー容量を掛ければ、オールBEV化に必要なバッテリー容量が分かる。例えば、リーフの小容量バッテリーモデルを基準に40kWhのバッテリーを搭載したとして、4000GWh。テスラで最も売れている80kWhで考えるなら8000GWhになる。常識的に考える限り、現在の200〜300GWh程度から、短期間に4000GWhとか8000GWhへバッテリー生産量を拡大できるとは思えない。ちなみにレアアースの採掘は極めて環境負荷が高いことも触れて置きたい。以下、本連載の過去記事から引用する。

 『そもそもレアメタルは、ごく当たり前に海水に含まれており、絶対量としては決して少ない元素ではない。むしろありふれている。しかし、海水中の有効含有率は極めて低く、濃度が薄いそれを濃縮していては採算が合わない。

 ではどういうところで採掘すれば元が取れるのかといえば、例えば南米ボリビアのウユニ湖のような塩湖や塩類平原である。ひとまずややこしいので以後、両者を併せて塩湖と呼ぼう。塩湖の泥には、塩(ナトリウム)だけでなく、地殻から溶け出したさまざまな物質が、長期にわたる水分の蒸発によって極度に濃縮された状態で含有されている。

 そうした濃縮の過程を経て、リチウムやコバルトやニッケルなどが高濃度に含有されているのである。しかし、鉱物資源として有用なものだけが存在するなどという都合の良い話はあるはずもなく、水銀やクロム、カドミウム、ヒ素といった有害な重金属もまた含まれる。そもそもバッテリーに使われる鉛もマンガンもコバルトもニッケルも、人体には有害な重金属である。

 当然、必要なレアメタルを取り出した後の廃液は、然るべき手段を経て処理されないと大変なことになる。最近では報道されることが減ったが。中国の河川が赤や緑に染まったわけは、これらの資源を採掘し分離や精製をする過程で、不要物質を河川に垂れ流したからだ。余談になるが、レアメタルを精製する過程では大量の水を必要とする。しかし地域によっては水は極めて貴重であり、人の飲み水と競合する。これも頭の片隅には入れておいた方がいい』

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