保育園での虐待、替え玉受検……「密室」で起きる悪事をどう防ぐべきか?マネジメントの手立ては(3/4 ページ)

» 2022年12月12日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 また、中には社員がサボっていないか監視するかのように働く姿をずっと凝視している管理職がいたりしますが、社員の監視しかしていない本人こそサボっていると言えます。つまり、社員を出社させて目の前にいる状態にしたところで管理職の気慰めにしかならず、密室状態を払拭(ふっしょく)するのは不可能だということです。それどころか、仕事を「やってる感」を前面に出すだけでやっていない、サボり上手が評価されてしまうようなことにもなりかねません。

 それでも、もし完全に密室状態をなくそうとするなら、社員にGPSを持たせ、かつ勤務状況を撮影して行動記録を残すといった監視体制を敷く必要が出てきます。しかしながら、GPSなどを使った会社による社員の行動監視は、センシティブな問題につながる可能性があるだけに注意が必要です。具体的に3点挙げたいと思います。

「社員の行動監視」がまずい理由

 まず1つは、プライバシーの問題。行動把握の時間を勤務時間内に定めていたとしても、GPSで位置情報を把握していれば手洗いにいるかどうかまで分かってしまいます。もし、GPSを見ていた管理職から「随分長い間、お手洗いにいたね」などと言われたりしたら、社員はどんな気持ちになるでしょうか? そのように声をかけられないとしても、見られていた状態自体が気持ち悪いものです。

 次に、ずっと監視されている状態は社員にストレスを与えます。仕事のパフォーマンスを高める上で程よい緊張感は必要だと思いますが、監視目的で勤務状況を逐一撮影され、録画・録音などされたりすると過度に緊張してしまいかねません。目がかゆくても「下手に目をこすると眠いと思われるのではないか」などと不要な神経を使ってしまうようでは、消耗してストレスフルになってしまいそうです。

画像はイメージ(ゲッティイメージズ)

 最後の3つ目は、ハラスメントの誘発です。1つ目で示したように、プライバシーの侵害につながるような情報はセクハラやモラハラなどを誘発する危険性があります。GPSの設置や勤務状況の撮影、記録などの行為は、その権限を有する者がその気になれば悪用する可能性さえ否定できません。エスカレートすれば、盗聴や盗撮、ストーカー行為といった犯罪につながる危険性もありえます。また、過度な監視を強いればパワハラにもなりえます。

 さらに危険だと思うのは、監視体制を敷いて密室状態を払拭したものの、その職場自体が外界から隔離された密室になっている状態です。職場という密室内は、経営者や管理職など力ある者が絶対的優位に立っています。その絶対的優位者がもし不健全な職場運営をしていてその事実を隠蔽(いんぺい)しようとする場合、社員を監視する権限を持てば、鬼に金棒です。社員が会社内の問題点について話したり、より良い職場にするために意見交換しようにも、下手にホンネで話せなくなります。まるで秘密警察におびえて過ごす独裁国家のようになってしまいかねません。

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