密室を完全になくそうとすると、職場はどんどん窮屈になっていきます。一方、職場を取り巻く環境は、今後さらに会社と社員が物理的に切り離され、会社から社員の様子が見えない密室機会が増える方向です。
テレワークが広がれば勤務場所の数だけ密室が現れることになりますし、社員が副業すれば、その勤務時間中も本業の会社からすれば密室状態。また、有休や育休などの取得が進む一方、その間の仕事対応を拒否できる“つながらない権利”が尊重されつつあり、休み中の会社と社員は完全に切り離される傾向にあります。
以上のように見ていくと、これからの職場運営で密室機会ゼロを前提にするのは現実的ではありません。取り組むべきは、密室ありきのマネジメント体制構築です。目が行き届かないことを前提にするため、管理職が逐一社員の状況を見ながら業務指示を出して動かす他律的マネジメントは機能しづらくなります。
以前書いた記事「なぜ、7割超の日本企業は『五輪・緊急事態』でもテレワークできなかったのか」でも指摘した通り、成果から逆算したタスクを細かく設定するなどして業務改善を行い、自律的マネジメントへと移行させることが不可欠です。
一方、密室ありきの職場で、立場が弱い側の安全面の確保も考える必要があります。冒頭で触れた保育士による園児虐待を報じたニュースには「内部告発していた保育士さんに『公言しないように』って園長が土下座したと言っていた」とありました。しかし、事件が明るみに出たのは、その内部告発がきっかけです。
また、ゼミ生募集で起きた大学教授のハラスメントは男子学生がそのやり取りをSNSに晒したことで発覚しました。これらの事例が示すように、密室内の力関係が弱い側の安全は確保した上で、密室に空気穴を通す仕組みが必要です。発注者によるイジメ対策などで、公正取引委員会が年に一度、下請事業者に不当な扱いの有無をヒアリングしている定期調査などは、参考になる施策の一つだと思います。
さらに、社員の行動監視目的ではなく、事故や犯罪防止を目的とした監視体制の構築も密室内の安全対策には有効です。過度な行動監視とならないよう適切な折り合いをつける必要はありますが、実際に防犯などの対策で保育の様子を撮影している保育園やAIを使い適性診断テストを受検する様子をモニタリングして不正対策している会社もあります。
働き手の志向が今後さらに多様化していけば、職場から見た密室機会の増加スピードも加速することになります。密室状態ゼロに固執するのではなく、密室を放置してしまうのでもなく、密室を適切にマネジメントすること。それは、これからの職場運営の成否を握る重要な鍵の一つとなるのではないでしょうか。
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング