リテール大革命

TikTokの新戦略と、抗戦するアマゾン 奪い合う「動画を見て衝動買い」の市場石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(2/6 ページ)

» 2022年12月20日 07時00分 公開
[石角友愛ITmedia]

TikTokのECの歴史

 ここで、TikTokのEC進出の軌跡を確認したいと思います。

 報道によると、同社を運営するバイトダンス(字節跳動)は、まず21年2月にインドネシアでTikTokの電子商取引(EC)機能「TikTok Shop」の運用を始めました。その後今年4月にタイ、ベトナム、マレーシア、フィリピンで、6月にはシンガポールでも運用を開始し、東南アジアで順調に規模を拡大しています。インドネシアでは4月2日から始まったイスラム教の断食月「ラマダン」期間に、TikTok Shopでの発注が493%増加、GMV(流通総額)は92%増加したといいます。

東南アジアで一気に広まったTikTok Shop(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 このようにさまざまなメリットを持ち東南アジアで一気に広まったTikTok Shopですが、欧米での展開には障害があるようです。

 TikTiokは英国でも21年末からEC事業のテスト運用を始めましたが、最新のデータによるとインドネシアのTikTok ShopはGMVが一カ月平均2億ドル(約290億円)なのに対し、英国ではわずか2400万ドル(約34億3000万円)にとどまったということです。

 というのも、英国ではTikTokはSNSという捉え方がすでに定着しているため、動画の合間に挿入されるライブコマースに違和感を覚える人も少なくないということです。また、安すぎてどこか信用できない・配送が遅い・返品や返金の処理に手間がかかるといった理由でTikTok Shopを敬遠するユーザーも多いようで、やはり商品の発送元である中国との物理的な距離も欧米での展開を難しくしている要因だと考えられます。

 しかし、このような課題を乗り越え、ついに今年の11月に米国でもTikTok Shopをローンチさせたと報道がありました。

 ABCニュースの記事によると、TikTokは米国展開に際し、今年9〜10月の2週間でLinkedInに米国での物流や倉庫関連の求人情報を複数掲載し、アプリを使用する販売者に対応する無料返品プログラムの管理や在庫移動方法の計画、TikTok Shopのフルフィルメント(通信販売やECにおける受注から配送までの一連の業務プロセス全体のこと)を開発および拡大するための候補者を探しているといいます。

 また、シアトルの別の求人では、グローバルeコマースチームとグローバル倉庫ネットワークの構築を担当するチームメンバーの採用情報も見受けられたといいます。

 これは、同社の米国でのソーシャルコマース進出計画がアプリ上での購入を促すだけではなく、その後の商品の保管、梱包、物流、配達などを含むかなり大規模なものになる可能性があることを示唆しており、まさにEC最大手であるアマゾンに対して勝負を仕掛けていく姿勢とも受け取れます。

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