HR Design +

「リスキリングに5年で1兆円」 政府の号令に中小企業は何から取り組むべきか笛吹けど踊らず?(1/2 ページ)

» 2023年01月10日 07時30分 公開
[佐藤敦規ITmedia]

 昨今、リスキリングという言葉を新聞やネットニュースなどで目にすることが増えています。岸田政権は2022年10月、第210回臨時国会の中で「リスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と表明しました。それを支援するための助成制度も誕生しています。

 しかし話題になっている半面、思うように実施されていないのが実情。パーソル総合研究所の調査によると、新しいツールやスキル、知らない領域の知識などを学んだとする「一般的なリスキリング経験」のある人は3割前後にとどまっています。

「一般的なリスキリング経験」のある人は3割前後(出所:パーソル総合研究所「リスキリングに関する調査」)

 筆者が顧問先の中小企業の担当者に、リスキリングを実施した企業に支給される助成金の制度について説明しても今一つ反応が薄い印象でした。そこで今回はリスキリングが進まない理由とその解決策について説明します。

リスキリングの必要性が叫ばれている背景

 リスキリングとは、働き方の変化によって今後新たに発生する業務で役立つスキルの習得を目的に、勉強してもらう取り組みです。その必要性について盛んに報じられるようになったのは、次の2つの理由があると思われます。

 一つは「中小企業における低い生産性の改善」のためです。日本人の給料がここ30年横ばいという問題が指摘されますが、その要因の一つとして考えられるのが中小企業のDXの遅れに伴う生産性の低さです。時間当たりの売上高が低ければ、社員に還元する原資を確保できません。

 ITツールを導入したくてもそれを使いこなせる人材がいないという悩みを抱えている中小企業は少なくないと思います。このような課題を解決するため、IT関連のスキルを持った人材を養成する必要があります。

中小企業では人材育成が急務(画像はイメージ)

 もう一つは、「定年延長化に伴う学び直しの必要性」です。21年4月に高齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。今は努力義務であっても年金の支給年齢の引き上げに連動して義務化される可能性もあります。

 もしそうなれば、大半の人は20歳前後から70歳まで約50年間働くことになります。どの職種であれ、50年間同じスキルで働き続けるのは難しいでしょう。テクノロジーの進化に伴い自分の持つスキルの陳腐化は早まります。長い間仕事を続けるために、新たなスキルを身につけなければなりません。

 似た言葉としてリカレント教育というものがありますが、違うものです。リスキリングは企業が従業員に学ぶ機会を与えるものに対して、リカレント教育は社会に出てから一度仕事を離れ、大学などで教育を受け直してからまた仕事に戻るという本人の選択による循環を指すからです。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.